えみと大谷は、公園のベンチに腰を掛ける。
子犬は、ベンチの下の日陰にそっと座わってえみと大谷の方を見つめていた。


「えみちゃん。」

静かに吹く風に乗せて、大谷が話し始める。

「あの後、井上と何か話した？」

えみは、首を横に振って顔を曇らせる。

「今、何を言っても諦めの悪い男の戯言に聞こえちゃうかもしれないけど、僕はいつだって、どんなときだって、えみちゃんの味方だよ。」

「‥‥。」

えみは返す言葉が見つからないまま、黙って俯いた。

「好きだよ。」

大谷がそう言葉を発した瞬間、強い風が吹いて、えみには大谷が口にした言葉が聞き取れなかった。

「え？」

風で乱れる髪を耳に掛けながら、えみは大谷の方を向いた。



「好きだよ。えみちゃん。」

その瞬間、大谷はえみをギュッと抱き寄せて、耳元でもう一度囁いた。


えみは、こんなにも自分を思ってくれる大谷の優しさにどう応えたらよいか分からないまま、そっと大谷の腰に手を回した。