その頃、えみもソファに横になって様々なことを考えていた。

何を考えるにも、ため息ばかりが出る。


そのとき、えみの部屋のチャイムが鳴った。

えみは一瞬目をつぶって、玄関へ行こうか悩む。


悩んだ末に、重い腰を上げて玄関のドアを開けると、そこには一匹の子犬が舌を出してえみを見つめていた。

「え?」

えみは驚きながら、急いで子犬の目線になるようにしゃがみ、頭を優しく撫でた。

「えみちゃん、おはよ。」

どこからともなく声が聞こえる。

えみがキョロキョロと周囲を確かめていると、横から笑顔の大谷が顔を出した。


「ビックリした?」

大谷はお茶目に笑いながら、子犬のことを抱き上げた。


「どうしたんですか?この子犬。」

えみは、子犬の首筋を撫でながら大谷に尋ねた。


「大学行く途中によく吠えてくる犬いるじゃん?あの犬が赤ちゃん産んだんだ。さっきその家の前を通ったら偶然見かけてさ、それでお願いして、ちょっとだけ借りてきちゃった。」


大谷も子犬を撫でながら優しい表情で話す。

「‥‥‥。」


えみは、無言で子犬を撫で続けるも、心が癒されて行くのを感じていた。

「せっかくだから、軽く散歩でも行かない?」

大谷は、いつもよりも少し控えめに誘う。

「はい。行きます。」

えみは迷うことなく返事をした。


「よかった。」

大谷は安心した表情を浮かべ、子犬に繋がれているリードをえみに渡した。

そして二人は、隣り合わせに並んで公園の方に向かって行った。