井上と大谷の時間が一瞬止まり、空気は静まり返った。


「井上‥」

大谷は息を呑んで、真っ直ぐに井上を見て言った。

「お前は、えみちゃんにそのことを話すべきだ。」


全てを吐き出して興奮した息を整えながら、井上は大谷を見る。

「ちゃんと話さないと、何も変わらないだろ?お前はこのまま、えみちゃんを傷付けて失っていいのか?」

大谷は冷静に話しを進める。


「でも‥」

しばらく黙っていた井上が口を開いた。


「この話を知ったら、真田さんはもっと傷付くことになる。そうなるくらいなら、黙って、ただ側を離れる方がいいって‥そう思ったんです。」

井上の声は、様々な感情が入り交じり震えていた。


「お前の気持ちは分かる。でも、今お前が一番考えるべきことは、えみちゃんのことが好きかどうかじゃないのか?」


井上は、下を向いて黙り込む。


「俺は本当のことを全て話すべきだと思う。それでどうするかは、えみちゃんが決めることだ。」

井上はずっと黙ったまま、大谷の話を聞いている。


「それでもお前がこのまま身を引くって言うなら、えみちゃんは俺がもらうから。」


大谷はそう言って、井上の部屋から出て行った。


「くっ。」

井上は、立ちはだかった大きな壁を目の前に感じながら、何も出来ずに玄関のドアをただただ見つめた。