めぐに指摘されて初めて気付いてしまった。


無意識のうちに彼の姿を探している自分に。


そして玄関の扉を閉めた瞬間にまた思うのだ。


“ 今日も彼に会えなかった… ” と。


バイト先が同じはずの彼とは、ことごとくシフトも被らなかった。


初めてバイト先で一緒になったのは、大学が夏休みに入ってすぐだった。


だけどバイトをあがるのは私の方が一足早かった。


本当は結城さんも同じ時間であがるはずだったのに、交代で来るはずのバイトの人が熱で急遽来られなくなった。


閉店までの残り数時間を彼が代わりに残ることになったのだ。


スタッフルームに向かおうとした私を彼の声が呼び止めた。


冷静を装いながらも何を言われるのだろう…と内心ドキドキしながら振り返ると


「ちゃんとバスで帰ろよ。じゃあな、お疲れさん」


そう言ってポンと私の頭で1度だけ掌をバウンドさせた彼は仕事に戻って行った。