ていうかこれ、迷惑被ってるのは私の方なんじゃないの?

変な濡れ衣を着せられ、私の方こそ被害者だと声を大にして言いたい。

だけど、それをこの目の前の無愛想で不機嫌な勘違い男にぶつける勇気まではない。

だから、あくまでも落ち着いた声で冷静に言った。

「あの……先程から何を言われてるのかは分かりませんが、私はこの先にある女子寮に帰る途中です。それに今はあまり時間がなくて急いでいるので、すみませんが失礼します。」

丁寧にそう言って、まだこちらを見たまま突っ立っている彼の横を頭を下げて追い越した。

すれ違う瞬間、心の中では、思いきり舌を出して。

これから準備してすぐに出かけなきゃいけないのに、こんな所で身に覚えのない言いがかりをつけられてる暇は私にはないの!

口にこそ出せないけど心の中でブツブツ言いながら、背後からの視線を後頭部に思い切り受け歩き続けた。

後ろから彼の足音が聞こえてくることはなかった。