少し横道に入っただけなのに、学生の多い大学内とは思えないほど静かで癒しの空間がそこには広がっていた。
木々の葉を揺らす優しい風が頬を撫でるように流れ、池には2羽の白鳥が優雅に泳いでいた。
今は自然が奏でる音と私たち2人の足音しか聞こえなくて、外界とは遮断された別の世界に迷い込んだような不思議な錯覚さえ覚えた。
部活を引退してから伸ばし始めた肩までの髪が風でなびき、口元にかかる。
まだ結うには長さの足りないその髪を耳にかけたその時、彼の足音が聞こえなくなっている事に気付いた。
ハッとして視線を前に向けると、数メートル先を歩いていたはずの無愛想男が立ち止まりこちらを見ていた。
しかも、まっすぐに私に視線を向けている無愛想男からは、この優しい雰囲気の場所にはそぐわないほどの不機嫌オーラが滲み出ていた。
思わず私の足も、その場に固まる。
だけど、なぜ今私は無愛想男から睨まれているのだろう。
すると、無愛想男がそのへの字口を開いた。

