この片恋、非公認につき……





「よっ!
おはよ、ストーカーちゃん!」

「……あ、柚那おはよ」

「え。どしたどした?
この世の終わりみたいな顔して?
あ! 昨日やっぱり彼女になんか言われ……」

「う、ううん!
違う違う!
その……颯馬くんの追っかけはもうやめようと思って」


その言葉を聞いた柚那は私を有り得ないものでも見るような目付きで……。


「病院!
病院行こ!」

「だ、大丈夫だっ……ん?
あ……ちょっと柚那待って。
なんか定期みたいなの落ちてる……」



人混みの中を器用に掻き分け落ちていたものを拾う。
そして裏返して詳細を見た時……


「え!
これ颯馬くんの定期じゃ!?
やば!
これ運命じゃん麻帆!!」


私の心臓は控えめに言って止まるかと思った。

“千里颯馬”
見間違えるはずもない。
確かにそう書いてあったからだ。



「え、え、え……
どどどうしよう……っ」

「本人に渡すしかないでしょっ!
これないと向こうも困るだろうし?
良かったじゃんー!
千里くんと堂々と話せるキッカケ出来たし」

「う、うん……」



“これ以上、颯馬と関わるなら……
覚悟決めといた方がいいよ”



……でも私はもう……

頭ではダメだって分かってるけど……
踏み出した足は止められなかった。


「だから本当に落としたって言ってるんですけど」


……いた。
やっぱり駅員さんと揉めてる……。

運良く颯馬くん一人だし……
これは人助けの一環だよ、麻帆!


「あ、あの……
本当に落としたってことならどうするんですか……っ」

「み、湊っ?」

「これ……確かに彼のですよ……!」


ボン!と手を置けるスペースにそれを叩き付けてペコリ一礼して私は足早に立ち去る。


「ちょ……!
湊待てって……!」

「ま、待てない……です!」

「じゃあそのままでいいから止まれ……!」


颯馬くんの声に反応して止まりたくないのに体が勝手に止まってしまう。


「ありがとうな、まじで助かった」

「い、いえいえ……」



振り返る勇気もなく。

早く行かないと彩華ちゃんと鉢合わせ……



「……ちょっとアンタ……。
昨日の今日でこれ?
学習能力無いわけ?」

「……彩華……ちゃん……」

「おい彩華……何だよ急に……」

「颯馬は黙ってて!
もう我慢出来ない……!」



必死の形相で荒々しく歩み寄ってきた彩華ちゃんに掴みかかられた。

遠くで私を呼ぶ柚那の声が聞こえた気がした。


「なんのために昨日忠告したのか分かんないじゃん……!」

「おい彩華やめろ!」

「颯馬も颯馬だよ!!
なにヘラヘラしてるの?
ストーカーの一歩手前まで付きまとわれて楽しい!?」

「落ち着けって……!
ここ駅だぞ!」

「どこだってもういいよ!
アンタなんか……!!」

「あっ……!」


両肩を思い切り押されて、踏ん張る間もなく地面に尻餅。

予想していなかった痛みに鼻の奥がツンとした。


「湊、大丈夫か!」

「う、うん……!」


颯馬くんが膝を折って目線を合わせてくれた。



「……彩華、やりすぎだろ?
……悪いけど今のお前と今後付き合っていける自信が無い」

「……なんなの?
じゃあ二人で楽しくしてれば!?
……颯馬に拘るのもいい加減疲れた……!」

「あ……彩華ちゃん!」


急いで颯馬くんを仰ぎ見て声をかけようとして……やめた。

颯馬くんの顔を見ていればどれだけ後悔しているのか分かってしまったから……。

そんな颯馬くんを見てまた……胸が痛い。苦しい。

これが……恋なのかな。
こんなにも颯馬くんの近くにいるのに……

颯馬くんが見ているのは彩華ちゃんの背中だけ……。


「……追い掛けてあげて……彩華ちゃんのこと」

「……いやでも……」

「今じゃなきゃきっとダメだから……」


立ち上がって優しく颯馬くんの背中を押す。
初めて触れた大きな背中は……
哀しいくらいあったかい。


「……分かった。
行ってくる」

「……うん」

「……あのさ」

「どうかした?」

「彩華が何言ったか分かんねーけど自分の気持ちに嘘つく必要無いと思う」

「……え、」



真っ直ぐ私の目を見てそう言ってくれた颯馬くん。



「誰かを好きになる気持ちは自由で誰にも否定出来ないと思うし。
だからまぁ、この定期に免じて公認ストーカーに昇格してやってもいいけど」

「……っうん」


いつもみたいな熱烈な言葉が出なくて……。
苦し紛れに頷いた私に背を向け彼は行く。


「……定期の件は拾ってくれた時の恩返しだけどね……っ」


颯馬くんなりにも私の想いを認めてくれた。
それなのに私の心は重いまんまで……。


恋ってやつは……
追い掛けるとこうも逃げてしまうものなのか……。



「……難しいな……片想いって……」




届かない貴男に恋をした。

それはたどたどしくて、全てを捧げた終わりの無い片恋だった……


【END】