「もうそろそろ行こっか」


真面目な女子の二人組が立ち上がる。
一年D組は、男子が教室で着替えていて待たされている時、放送で呼び出されていた。
体育館の裏の赤い扉の前に。


イベントの時期ならギリギリまで張り付いていたけど、基本は早めに行く人間だ。
必要かもしれないので体育館シューズを持って廊下に出た。


先に出た二人から少し距離を取って歩く。


体育館の裏には、本当に赤い扉があった。
この扉の存在は今日になるまで知らなかった。先は体育館に続いているのはわかる。けど、体育館に入るだけなら普通に呼び出すはずだ。


わかりやすい目印になるから選んだのか。それとも体育館の特別な部屋に入るということか。
もしも倉庫の掃除とか言われたらどうしよう。体育館の倉庫には重い物が置かれている。力仕事は嫌いだ。
そんなのを貴重な休み時間にさせるとは……。


パラパラと集まり始める。一番遅かったのはとある女子のグループだ。藤原さんがリーダーの四人組で、授業をサボったり化粧をしたり、自由な人たちだ。この四人組がクラスを明るくしたりするので、ただの困った存在ではない。


藤原さんは私が余ったときに仲間に入れてくれる。私は藤原さんのテンションについていけてないけど、一人になるよりはいい。


「あしっちゃ、元気ないね。体育で疲れた?」


私は黙って頷く。
それが原因ではないけど、そういうことにしておく。


あしっちゃというのは私のあだ名だ。
元は藤原さんが、私の名字をあしつかと読み間違えたことからあしつかになっていた。その後、あしっかに変わり、足柄茶の存在を知ってからあしっちゃになっていた。
最初は藤原さんたちだけがそう呼んでいたのに、男子と五人の女子以外はあしっちゃと呼ぶ。


五人の女子は足柄さんと呼ぶ。一緒に行動していた二人もこの五人の中に含まれる。


今は誰も、私を名前で呼んでいない。


名前で呼ぶのは家族とかつての友達だ。兄弟と中学時代の友達は呼んでさえくれないけど。それは仕方のないことか。