純粋乙女の恋物語

「その反応、いるんだね」

「あはは……」


じりじりと言葉で追い詰められる感覚に、私は乾いた笑いを零して誤魔化すしか出来ない。


「い、いないわ。女子校だもの」

「女子校だから出会いはないとは限らないよ? 友人の紹介とか、他校の男が君を見初めることも有り得る」


どうして、お兄さまはそんな怖い顔をするの?
まだお子様に恋は早いという意味かしら?
どの道、まだ白状する訳にはいかないわ! まだ傍にいたいもの。


「あ、そうだ。私、お兄さまに渡したいものがあったのっ」


私は赤いポシェットから、件(くだん)の手紙を取り出し、彼に差し出した。


「これは?」

「預かった恋文です」


お兄さまはそれを受け取ったけれど、依然として不機嫌な表情をしていた。


「相手はとっても素敵な方よ。藤原愛子さんと言って校内きっての才媛なの。美人で性格もお淑やかで謙虚で……」


私はべらべらと藤原先輩を賛美する言葉を一方的に喋り続けた。


「藤原先輩ならお似合いだと思うわ」


ズキズキと痛む胸を無視して笑顔で言った瞬間、突然、紙を破いた音が耳に入った。


私は目の前の光景に目を見張ったまま固まった。


どうして? 藤原先輩の恋文を読まずに破いたの――?