きゅ、っと音を立てながら、私の前の席の子の椅子に彼がそのまま私と向かい合わせになるように跨がる。
…ふわり、と微かに漂った西条くんの香りに時が止まった気がした。
「4時限目ねー、なんだったっけ。あ、そうそう数学だ。」
当の本人は全く気にしていないような感じだけれど、こんなの胸が高鳴って、顔が熱くて、どうしてくれるんだろう。
なんなら想いまでバレてしまいそうだ。
…いや、それだけはダメ。だって君は気づいてないもの。
西条くんの言った通り、空白に「数学」と書き込むと前から楽しそうな笑い声が聞こえる。
「篠宮さんって、綺麗な字書くんだね。」
「そんなことないよ…、西条くんだって大人っぽい字書くよね?」
「いや俺は雑なだけ。」
"本当に大人っぽいよ"と言おうとして、顔を上げた途端また息が止まる。
至近距離で合った瞳はあまりにも透き通っていて声にならなかった。
合って、どちらからともなくそらして。
…また、合わす。
「ふは、篠宮さんって目も綺麗なんだね。」
「…褒めても何も出ないよっ」
「別に見返り求めてませんから。」
ケラケラと笑う彼に何だか私まで可笑しくなって。
顔が自然と綻ぶ。


