「私は嫌ですからねっ。そんなめんどくさいこと。それに私と天音さん、血が繋がってるわけでもないんですよ?そ、それはみなさん同じですが…」

ぼうっとらこたつに足を突っ込んでいた天乃の耳におばさんのキンキン声が響いた。

「広美さん、そんなこと言ったって。じゃあどうするって言うのよ。この子の親は…」

「施設とか、方法がないわけじゃないんでしょう?」
今度は別のおばさんが口を挟んだ。

「嫌よっ。我が一門の名に傷をつけるつもりなの?」
顔に怒りマークのついた広美さんがどんっと勢いよくテーブルを叩く。

みんな気圧されたかのように部屋は静まり返った。

天乃は2時間以上続いているこの親戚会議に、泣きそうになっていた。
まだ母親が行方不明になってから1週間も経たないのに、自分の居場所のことでこんなにもめている。

はぁ。思わずため息をこぼしてしまった。あわてて口を押さえたけど、遅かった。
「あらまぁ天乃さん。ため息なんてついちゃって。あなたのことなのよ?大体あなた、母方のいないっていうの?」

とうとう広美さんが怒りの矛先をまだ幼い少女に向けた。
天乃が反論しようと口を開きかけたそのとき、勢いよく正面のふすまが開け放たれた。

「天乃っ、帰るわよっ」
そこに仁王立ちしていたのは見たこともない、20代後半と思われる女性。

「ひ、光さん…」
みんなが感嘆をもらすように呟いた。
光は、そのキリッとした目を天乃に向けた。

目鼻立ちの整ったスッキリした顔立ちは心なしか母に似ている気もする。
「初めてまして、天乃。紀ノ上 光です。うちにおいで。」