キイロカナリア



【キイロカナリア】




“架奈は一番上のお姉ちゃんなんだからね”

“妹達には何でも譲ってあげなくちゃ”


親から呪文のように唱え続けられたその言葉は今も私を雁字搦めにしている。



「さーくーやー先輩! 帰りましょ!」

「さなちゃんっ!
待っててくれたの?
ありがとう」

「朔哉先輩のためならいつまでも待ちますよ?
じゃあお姉ちゃん、また家で!」

「……っあ、うん……!」




行かないで……。
私も好きなのに……。

そんな言葉はもう彼には届かない。
いや……届けられない。
口の中に、心の奥底に後味悪く残るだけ。

妹の彼氏が今でも好きだなんて……。
本当に笑えない。


でも、好きになったのは私が先で。
でも、選ぶのは彼、朔哉くんで。
でも、あたしはお姉ちゃんだから。

紗奈に譲ってあげなくちゃ……。

妹の哀しむ顔は見たくなかった。
あたしが我慢すれば済むことだ。
自分の気持ちに嘘をつけばいい。



「まーたあのバカップルの見送り?」

「げっ……そ、そうた……」

「げってなにさー?」



不満そうな表情を浮かべて隣に並んできたのは同じクラスの新海奏汰。

近くの席になったことで仲良くなった貴重な異性の友人だ。



「……て、てか!
妹をバカップル呼ばわりするのは許さんんー!」

「さすがシスコンの姉貴だよなぁ。
ほぼ毎日妹の彼氏待ちに付き合わされて?」

「ひ、一人で待たせるのは心配なの……!
紗奈は本当に可愛いんだからっ!」

「だから好きな人も取られた、と?」

「……ほんっとに……意地悪だよね!
奏汰は!」



奏汰は色々と私の色恋沙汰とまで大事にはならないけれど知っている部分が多々ある。


私も奏汰も紗奈も朔哉くんも皆同じ高校だ。
唯一、紗奈は一つ下の学年で高校二年生。


紗奈が朔哉くんと急接近したのは学校で私と話している所を偶然見つけたことからだ。



「……今でもあたし思うんだ……」

「え、何を?」

「もしあの日ね……
紗奈が朔哉くんを見つけなかったら……
あそこにはあたしがいたのかなって」



無力な私はただ二人の背中をこの目に焼き付けることしか出来なかった。

その度に名もない胸の真ん中が痛んでまだ彼のことがここまで好きなのかと痛感させられる。



「……そうかも知んないし、そうじゃないかも知んないな」

「まぁ分かんないよね。
そんなこと誰にも」

「あ、架奈姉いたいた」

「おー、茉奈!」



私達は全員で三姉妹。

その末っ子の茉奈は私の五つ下の中学一年生。
今日からテスト週間で部活もお休み。



「……って、また校門で紗奈姉の見送り?」

「茉奈も奏汰と同じこと言うのねぇ……」

「あたしなら耐えられないけどー」

「やっぱそうだよな?」

「……ふ、二人してぇ……!」



ほら帰るよ!と私は一人足取り勇ましく進んでいく。



「……架奈姉、一途ですよね」

「え……?
あ、うん……」

「奏汰さんも複雑ですね。
片想い同士がこじれると」

「……茉奈ちゃん鋭いねー」

「ほら奏汰、茉奈!
ぐずぐずしてないで帰るよー」



二人が会話を交わしていたことなど知るよしもなく振り返って二人を呼ぶ。

私の声を聞いて二人は歩き始める。

それから前を向くけれど朔哉くんと紗奈はもう見えない。



「……っ」



もう叶わないのに……
どうして片想いなんていつまでもしているんだろう。

恋愛の片想いなんて……いらないのに。
こんなの抱え込んでも……苦しいだけなのに。

なんで今も……こんなに想い焦がれてしまうのか……。
いっそこんな想いなんて焼き切れてしえば楽なのに……。


……いや、違う。

私が我慢すればいいんだ。



「……だってお姉ちゃん……なんだから……」



何でも妹に譲るのは当たり前。

それが例え密かに恋慕う相手だとしても……



「ん?
架奈姉なんか言った?」

「……っえ?
あ、ううん……!
き……今日の夜ご飯何かなーって?」

「相変わらず架奈姉は食べるの好きだよねー」

「だから見る度に太っ……」

「んー?
奏汰くん何か言いましたかねー?」

「太った……って!
力任せに殴んなってのー!
痛えって!!」

「奏汰にはこれくらいで充分!」

「冗談だってのー」

「はいはい」



……大丈夫、大丈夫。

この痛みはきっと流れ行く時間が癒してくれるだろうから…────────