翌日。俺は電車に揺られ、高校へ向かっていた。

することがなくスマホをいじっていたのだが、目的の駅に着くと顔を上げた。ドアの外には朝から顔をやつしたサラリーマン達が整列し、俺と同じようにスマホと向かい合っていた。電車の中も中で、新聞を読む人、つり革を持ったまま目を閉じる人、混み具合にいらだつ人、皆同じような顔に見えた。皆、俺と同じように平均的な人ばかりだった。少なくとも俺にはそう思えた。

改札を抜けると、昨日見た女子生徒の姿があった。日野だ。後ろ姿だから確証は持てなかったが、昨日日野がしていたそれと同じ髪留めを付けていた。周りに取り巻きがいなかったのは意外だった。変装でもしているのだろうか? だが特別興味を持っているわけでもなかったから、俺は日野の横を通り過ぎ、横目で日野の顔を見た。日野は紙マスクをしていた。

「……あれ? 君、阿倍くん?」

驚いたことに、日野から声をかけてきた。一瞬たじろいでしまったが、何ごともなかったかのように振る舞った。

「そうだけど、どうした?」

立ち止まった俺の横に、日野が小走りで近寄る。

「今私の顔チラ見したでしょ?」
「そりゃまあ、同じ制服着てたからな。クラスメートでも先輩でも、顔覚えといて損はないだろ」
「確かにそうね」

俺の横を歩く日野は、女子としてはかなりの高身長で、ヒールでも履けば俺と肩が並ぶ程だった。マスク越しにも分かるその美貌は、幾度となくカメラに晒されてきたおかげか、烏合の衆の視線など全く気に留めないという雰囲気を醸し出していた。人にオーラがあるとするなら、日野には間違いなくそれがある。画面越しの存在を生で見て、改めてそう感じた。