そして、俺は生徒会室に連行され、挨拶をする羽目となった。

正直、生徒会に入るのは嫌だった。元々生徒会に興味がないというのもあるが、兄貴がいるというのが俺には引け目だった。俺とは違い、輝く才能を持って生徒会をまとめる兄貴が俺の比較対象となるのが、平均的に生きるはずの俺の評価を不当に下げているように感じられるのだ。

「まあ気づいているとは思うけど、黎次は俺の弟だ。色々至らないところがあるかもしれないが、よろしく頼む」

兄貴が俺の肩に手を乗せる。兄貴の一挙手一投足がその人望を生んでいるとは分かっていても、その行為を自然にする才能を俺が持ち合わせているとは思えなくて、俺はまた兄貴の影に隠れることとなった。

「……会長、さっきの話の続きを」

眼鏡をかけた大人しそうな人が、兄貴に促す。この学校は制服についているバッジで学年が分かるようになっており、その人が2年生であることはその人が俺の方を向いた時に知った。

「あっ、副会長の坊良朔史(ボウラ・サクシ)です、よろしくお願いします」

俺の方を向くと坊良先輩は物静かな口調で挨拶をしてきたので、俺はとりあえず会釈をした。

だが、この人物が今回の事件においてかなりのキーパーソンになるとは、この時の俺は知るはずもなかった。だから、坊良先輩がトイレに行くと言って生徒会室を出た時も、俺は全く警戒心を抱かなかった。