「お待たせ〜」

琵琶さんが台本を手に戻ってくる。重圧を感じていた日野も、琵琶さんの声を聞くと顔を上げた。

「2人とも、仲良さそうに話してたわね〜」
「ちょっ、聞いてたの?」
「まさか、そんなことはないって。見てただけ。……さてさて、一応台本だけど……」

日野がゲスト出演していた、ドラマ「ホワイテスト」の第7話の台本。「ホワイテスト」は、中小企業社長の主人公が、同業の業界最大手のブラック企業と戦い、そのブラックさを崩していくというドラマ。日野はその第7話で、ブラック企業にヘッドハンティングされるもブラック企業の餌食になる社員の娘役を演じた。

「歌澄、こんなのどう使うつもりなの?」
「……これは聞いた話なんだけどね」

日野はスマホの画面を見せた。そこには、とある人物のSNS上の書き込みが映っていた。

「この人、自分が勤めてる会社がブラックだって言ってるんだけど、前の書き込みを見てると、多分金野の会社のことを言ってるように思えてきて」
「どういうことだ?」
「まぁ、私のフォロワーさんなんだけどね、自分の会社の社長と私が同い年ってのを書いてて」
「ということは……金野の会社がブラック企業だってこと?」
「そう。ただ、あくまで推測の域を出ないから、調べて、しかもそれを発表してくれる人も必要なの」

復讐には人手がいる。どこかで聞いた台詞だが、その真実味を感じたのはこの日が初めてだった。

「歌澄、知り合いにそんな人いるの?」
「えっと……」

俺も頭を回した。説得力ある言葉で、批評を行える人物……。

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