「大人びてるか……。秋葉ちゃんも十分大人びてると思うよ」

店長が食器類を洗いながら言う。
当たり前だ。そう思われないと困る。
あなたに少しでも近づけるように、名一杯おしとやかに、大人びて見せているのだから。

「今時の高校生は、店長が思ってるほどチャラくないですよ?」

「そうなのか。時代は変わるものだね」

「店長だって、まだ若いじゃないですか」

「10代と20代って、結構違うよ」

相変わらずの苦笑い。
違うという言葉に少し胸が苦しくなる。
二人だけの喫茶店に揺ったりとしたときが流れる。
会話が、止まった。
店長の後ろに珈琲豆が瓶にはいってずらりと並んでいる光景は、とても落ち着きを感じる。

……やっぱり、高校生と大人って大きく違うんだってことを、嫌でも思い知らされる。私がどれだけ大人びて見せても、店長はその先を行く。私は大人びてるようにしているだけで、店長と同い年の女の人に比べたら、まだまだ子供にすぎない。
もっと、早く、大人になりたい。
少しでも、店長に近づきたい。
癖毛の髪も、柔らかな笑顔も、丸眼鏡も、ベレー帽も、エプロンも。
店長のすべてが、すべての雰囲気が好きなのだ。

「僕のかおに、なにかついてる?」

クスッと、子供のように笑う。
私は慌てて顔を背けた。

「す、すみません!」

思わず見つめてしまっていた。
どうしよう、何て言い訳しよう?
私は慌てすぎて、顔が真っ赤になってしまった。

「珈琲のおかわりでいいかな?」

「あ、はい」

よかった、気づかれてない。
店長って、意外と鈍感?
だとすると、私のことだって、ただの高校生の常連さん止まり、か。

異性を好きになったことなどなくて、恋なんかしたこともなくて、どうしたらいいかわからない。
きっと、友達に話せば、冷やかしに来るだろうし、告白しろとアドバイスされるのだろう。
でも、それをすることで、店長とのこの関係が壊れてしまうのなら……。

「お待たせしました」

「ありがとうございます」

私は、店長に笑顔を見せた。
このままの関係でいい。