【完】溺れるほど、愛しくて。





この街に来たのは数回だけど噂くらいは聞いたことがある。


今日だって、慶さんの家に来る前に『100人を一人でぶっ倒した』だとか『仲間まで殴った』ということを話しているのを聞いた。


その話が本当のことなのかが分からない。
仮に本当だとしてもあたしは慶さんを“怖い”と思うことはないよ。



「怖くないよ。だって、慶さんは
こんなにあったかいご飯を作れる人なんだから」


「…」



こんなに美味しくて温かいご飯は久しぶりに食べた。
作っている人の心が優しいからなんだと思う。



「その目つきはちょっと怖いけどね」


「…うるせぇ」



あたしが冗談っぽく言うと慶さんもクスッと笑いながら冗談で怒ったように言った。



「ふふっ…誰かと食べるご飯って
こんなに楽しいんだね」



あたしはいつの間にか忘れてしまっていた。
誰かと共に何気ない時間を過ごすことを。


ずっと一人で自由を探して彷徨い続けて…。


誰かと一緒に過ごすことの大切さや楽しさをすっかり忘れていたよ。