【完】溺れるほど、愛しくて。




『お前ってさ、施設で暮らしてんだろ?』



どっからそんな情報を仕入れてくんだよ…と思ったけど事実だから俺はただ黙って頷いた。



『俺は“BlackCity”で暮らしてる』



“BlackCity”


その町の名前を聞いた瞬間、正直驚いた。
“BlackCity”は悪い話しか聞かねーし。


普通の家庭も住んでいるけど、大抵は闇を抱えたヤツらが一人暮らしをしているらしい。



『一人暮らしじゃなくて、親父と暮らしてた』


『……』



引っかかるところはあったけど話に続きがあることがわかっていたから何も言わなかった。



『母さんはいない。
俺が小さい頃に他に男を作って出ていった』



辛そうに表情を歪ませながら、ぽつりぽつりと言葉を紡いで話していく五十嵐。


その表情を見ているだけで胸が締め付けられた。


俺も捨てられる気持ちは痛いほど分かるから……。



『親父は男で一つで俺を育ててくれたけど…会社をリストラされて…この前…自殺したんだ』



……さっき引っかかっていたことが今、解決した。


“親父と暮らしてる”とは言わず“親父と暮らしてた”と過去形にしたのはこれが理由。