【完】溺れるほど、愛しくて。




……うぜぇ。すべてがうぜぇ。



『俺を殴りたいなら殴れよ』


五十嵐は俺の隣に来てたった一言そういった。


『は?』


『その代わり、赤羽のことはもう殴るな』



なに、言ってんだよ……

頭おかしいんじゃね?



『お前…なにいって…』


『赤羽、喧嘩っつーのは
大事なもん守るためにするんだ』



……大事なもん?


だから、お前は昼にコイツらとやりあおうとしたときに止めたのか?



『ごちゃごちゃうるせぇんだよ!』



五十嵐の顔にヤツらのうちの一人のパンチがヒットした。

そんなこと予想していなかつた五十嵐の体は地面へと倒れていく。


…ったく何やってんだよ。


いつもの俺ならたぶん見捨てて帰ってる…
だけど今日はそれがなぜかできなかった。



『うるせぇのはお前らの方だ』


『お前、まだいたの?』



なんて冗談っぽく尋ねてくるヤツらは最高にウザい。



『赤羽…俺のことはいいから…』



五十嵐の手がすっと伸びてきて俺の服の裾を掴んだ。


だけど、俺はその手をゆっくりと下ろし、五十嵐に向かって笑うことなんて慣れていないけど精一杯微笑んだ。