「え?してないよ。
それがどうかしたの?」
昔から嘘がつくのが上手かった。
というよりも、お母さんやお父さんたちに迷惑をかけたくなくて
いつの間にか勝手に口から嘘の言葉が自然と出るようになっていた。
本当は“寂しい”“構って”と言いたかったのに
『あたしは大丈夫だよ』
『お仕事頑張ってね』
そんな気持ちのこもっていない嘘の言葉たちを言っていた。
今だってそうだ。
昨日、“Black City”に行ったのに嘘をついた。
だけど、あたしの言い方があまりに自然だからなのかお母さんは疑うこともなくいつもすぐに信じてくれる。
「いや、あそこは危険だから近寄っちゃいけないよ」
「うん。分かってるよ」
危険な目に合いそうになった…なんて口が裂けても言えない。
お母さんをこれ以上心配させたくない、負担を掛けたくない。
「じゃあ、お母さんは病院に行ってくるわね。
何かあったら、すぐ連絡してちょうだい」
「うん。いってらっしゃい。気をつけてね」
お母さんが部屋から出ていくのを偽りの笑顔を浮かべながら小さく手を振る。