私と恋をはじめませんか

私のことを思って、篠田さんは自分の気持ちを抑えようとしてくれていたんだ。

「有村から急に、高原さんのことを薦められたときも、本音を言うと乗っかって、協力してもらいたかった。でも、そんなことしちゃダメだと思って、必死で我慢して」

「なんで我慢なんかするんですか。おかげで私、篠田さんに避けられてるのかなって心配になったんですよ?」

ギュッ、と背中に回された手の力が強くなった。

「ごめん……」

「社内恋愛もする気がないとか言うから。だから私、篠田さんのこと諦めようと思って……」

「俺、間に合ったかな?」

不安そうな篠田さんの声に導かれるように、顔を上げる。

「なんでそんな不安そうな顔で私のこと見るんですか?」

「だって……」

「私がこうして、篠田さんの腕の中にいる時点で察してください」

真っ直ぐ目を見て自分の気持ちを伝えるのが恥ずかしくなって、私は再び篠田さんの胸に顔をうずめた。

「私も篠田さんのことが大好きです」

「よかった……」

頭上で篠田さんのホッとした声が聞こえてきて、私はもう一度、篠田さんのトクトク動く心臓に耳を押し付けた。





「で、これからどうしましょう?」

駅の入り口で結構熱烈なラブシーンを見せつけてしまった私たちは、逃げるようにすぐ近くのファミレスへと駆け込んだ。

席に座ってすぐ、私がそう言うと、篠田さんが不思議そうに首を傾げた。

「これからって?」

「これからの私たちのことです。篠田さんの性格だと、私たちが付き合ってることは秘密ですよね」

「ああ、そういうこと」

納得したように篠田さんはうなずいた。

「芽衣さんが言ってたんです。こういうことは最初にちゃんとふたりの意見をまとめておかないと大変だよって」

「ああ。あそこは全面的に崎坂の意見が尊重されてるから」

「じゃあ、篠田さんも私の意見を尊重してくれるんですか? だったら私、月曜日に出社次第、朝礼でみんなに報告しますけど」

「え? 高原さん。それはちょっと困るっていうか、マズイっていうか……」