私と恋をはじめませんか

そういえば、と日中の篠田さんの様子を思い出す。

「もしかして、芽衣さんからメールもらったのって、2時過ぎくらいですか?」

「はい、そうですけど」

「もしかして、あのときブツブツ言ってたのって、そのせいなんですか?」

耳だけが赤かった篠田さんの顔が、ほんのりと朱に染まっていく。

「見られてたんですか?」

「見てたも何も、隣の席ですから。なんかあたふたしてるなって思ってたんですけど……」

私のことで篠田さんがあたふたしていただなんて、すごくうれしい。

そして、勘違いじゃなければいいなという気持ちがどんどんふくらんでいく。

少しだけ期待してしまっている私の心が表情に現れていたのだろうか。

篠田さんは少しだけ微笑んで、まだほんのり赤い顔のまま、私の目を真っ直ぐに見つめた。

「俺、高原さんのことが好きです」

ストレートな告白に、私は驚きで固まってしまった。

夢かと思って頬をつねってみると、現実とわかる痛みが襲ってくる。

嘘。私今、篠田さんに告白された……?

うれしい、うれしいけど、私には確認したいことがある。

「でも、篠田さんには彼女がいるんじゃないんですか?」

「いえ、いませんけど」

「でも、私見たんです。ホテルのエレベーターから女性と降りてくる姿……」

篠田さんは顎に手を置き、考え込む表情を見せた。

すると、思い出したのだろう。目を少しだけ丸くさせて、「ああ、あれ」とつぶやいた。

「あれは、俺のいとこです」

「い、いとこ?」

「はい」

「でも、ただのいとこのようには見えませんでした。結構、腕とかに手も回してたし」

「ああ。小さい頃から外国に住んでるから、スキンシップはちょっと多い方かも知れないですね。あの日も帰国してきていて、俺が観光案内するのに呼び出されていたんですよ」

篠田さんが嘘をついているようには見えないから、きっと本当の話なんだろう。

言葉が見つからず、私は気持ちのままに篠田さんの胸に飛び込んだ。

一瞬びっくりしたように固まったけど、篠田さんの手は、優しく私の背中に回された。

黙ったままの私に、珍しく篠田さんは饒舌に話しかけてくる。

「今説明したように、俺には彼女はいません。でも、高原さんへ想いを伝えるつもりもありませんでした。気まずくなったら、仕事がやりづらくなるかなと思っていたから」

篠田さんの言葉に、さっきの春田さんの姿が重なる。