「気にしなくてもいいよ。アイツ、多分照れてるだけだと思うし」

「照れてる?」

「うん、そー。小春ちゃんが可愛いから、照れてんだよきっと」

「私が言うのもなんだけど、篠田も素直じゃないからね」

「……確かに。素直じゃない芽衣が言えたもんじゃない」

「自分で言うのはいいけど、有村に言われるとちょっとムカつくわ」

ふたりの反応が思っていたのと違っていて、私はますます困惑してしまう。

「どうしたの? 小春ちゃん」

思わず黙ってしまった私に、崎坂さんが心配そうな声を掛けてくる。

「いや、ちょっとびっくりしちゃって。その、私、篠田さんには嫌われているとばかり思ってたから」

「そこは大丈夫。アイツ不愛想でも、好き嫌いで仕事するようなヤツじゃないし。な?」

「うん。そこは同期として断言できる」

「だからさ、小春ちゃん」

「はい」

「ま、めげずに話しかけてやってよ。しばらくしたらアイツも心開くと思うしさ。俺の隣の誰かさんみたいに」

「え?」

「芽衣もさぁ、素直じゃないから。結構大変だったんだよ、ここまでくるの」

その言葉に、崎坂さんが軽く肩をすくめた。

同期のふたりがこう言ってるんだから、きっと篠田さんはいい人なんだろうな。

それがわかっただけでも、来週からの仕事も頑張れそうな気がしてきた。

「ありがとうございます」

思わず頭を下げると、ふたりはにっこりと笑ってくれた。






「あー、食った食った」

お腹をポンポンと叩く有村さんを見て、崎坂さんとふたりで笑いあう。

しっかり食べた焼鳥屋さんの帰り道。

電車の駅を聞くと、崎坂さんと私は一駅しか変わらないことが発覚。

同じ市に住んでいるとわかって、なんだかとても近い存在に感じてきてしまうのだから、不思議。

「じゃあ、崎坂さんの地元って、宮脇慎吾さんの地元ですよね?」

駅名を聞いたときから思っていたこと。

小さい頃から大ファンの俳優、宮脇慎吾さんが私の住む市出身ということは昔から有名な話で、同じ市に住んでいると、だいたいあのあたりに実家がある、とかそういう話は流れてくる。