脚に腫瘍があり、本来ならばもう歩くこともままならない。
その腫瘍も今となっては全身に転移していた。

それなのに優哉は私がここへ来ると決めている日に必ずやってくる。



「実はー、検査抜け出して来ちゃったりっ?」

「もうっ……また?」

「うーそ!
今回は検査ソッコーで終わらせて来たから」



安心しろっ!と言いながらVサイン。
今の姿だけを見れば到底、優哉が大病を患っているようには見えない。



「んなことよりさ、もっと凛の撮った写真見せてくれよっ?」

「いいよ。まずはこれだね」

「うわー、凄いなぁ。
打ち上げ花火とか……
もう何年も見てないな……」



ポツリ呟いた優哉は私の撮った写真をいくつも手に取っていく。

私の手はまた無意識にカメラを手繰り寄せ、写真を見つめる優哉の横顔をパシャリと一枚。

二度と戻らないこの瞬間を切り取るように……。



「あー、また始まったぜー。
凛の盗撮癖~」



からかうように言った優哉はその後、ノリノリでポーズを決めてくれた。

でも一番良かったのは、やっぱり不意討ちで撮ったあの一枚目だ。

本人には内緒だけど。



「……明日また来るから」

「……っえ?
いやでも明日はいつも来ない日……」

「お見舞い。
仕方無いから行ってあげる」

「……ま、まじで!?
絶対だぞ!?
忘れてたとか言ったら怒るからなっ!?」

「ちょ、どんだけテンション上がってるのー?
ほら落ち着いて」

「絶対だからな!?
……待ってるから、オレ」



子供のようにはしゃいだかと思えば今みたく急に静かにそう紡ぐ。

彼には……生きる時間が限られている。
限られている時間があることは私にも共通することだけれど……

優哉にはこの先もずっと……そんな約束が出来ない。
明日も……なんて不謹慎な話だけれどその明日さえこないかも知れない。



「絶対行くよ。
だから大人しく自分の、病室で待っててよ?」


また動き回られては困るので自分の、というポイントを強調しておく。



「任せとけっ!
また明日な、凛!」

「うん。
また明日ね……優哉」



一応そう約束はしてくれた優哉を病室まで送って私も帰路に就く。



「……また明日……か」



そう哀愁漂わせて呟きながらそれでも景色を収める手を止めなかった。

また明日……優哉に見せる写真を少しでも増やすために。

そして少しでも一緒にいられる時間を作るために…────────