【透明な世界でふたりぼっち】
人の心は嘘をつけど、写真は嘘をつかない。by田城凛
これは私が自ら作り出した私の中の名言である。
ダサいとかクサいとかの文句は聞きませんからね。
「うーん……。
ここの構図はもうちょい右にずれてても良かったかも……?」
真っ白な部屋のホワイトボードに貼り付けられているのは様々な風景の写真。
真っ黒な夜空を彩る打ち上げ花火。
夏祭りの賑やかな屋台。
夏の真っ青な空。
河原に咲く花一輪。
全て私が撮ったものだ。
写真を撮ることが私の趣味で。
高校二年生という比較的自由な夏休みを使ってほとんど毎日色々な所へ繰り出し写真を撮っていた。
そして今、私がいるのは近所の病院。
母の知人で看護師をしている人に頼まれ、入院生活で外に出ることが出来ない子供達に撮った写真を見てもらっていた。
その子供達がみな退出していった後で私は一人、今日の反省会。
将来、写真だけで食べていこうとは思わないけれど、この道を極めたい思いは本気だ。
「相変わらずストイックだね、凛は」
「あっ、優哉」
「やほー」
私のいる病室へやって来たのは子供達と同じくここで入院生活をしている笹木優哉。
年は私と同じだ。
「オレからすれば全部綺麗に撮れてると思うけど?」
「初心者さんの優哉から見れば、の話でしょ?
これじゃまだまだダメだよ」
「その毒舌ぶりも相変わらずってかー」
優哉との出会いは今から三ヶ月前。
ゴールデンウィークに初めてここに来た時だった。
初めて優哉を見た時……
私は無意識のうちにファインダーを覗き、優哉を映した。
彼は……消えてしまいそうに儚くてとても綺麗で。
うっかり触れてしまえば壊してしまいそうな錯覚を覚えさせる繊細さがあった。
今まで出会った中でも唯一無二の特別な被写体だった。
そんな言い方をすれば優哉はちょっぴり怒るのだけれど。
私にとっては最高の褒め言葉である。
「……それにしても優哉、今の時間はいつも検査じゃないの?
こんなとこにいて、またあたしまで怒られるの嫌だよー?」
あまり深刻な口調にならないように、ほんのり茶化して言う。
優哉は……
横紋筋肉腫という病気を患っていて医師から余命宣告をされている。
私達が出会ったあの日、彼は医師からあと三ヶ月の余命だと告げられたそうだ。
三ヶ月……
その三ヶ月目がこの八月だ。