「ここが、私の家です。」

綺麗な一軒家。
俺の家とは比べ物にならない。

そもそも俺の家、マンションだし、その時点で負けてるよね。

「はい、なら ゆっくり休んで下さい。
じゃあ、またね。」

そろそろ時間遅いから、 "帰ってくるな" 、って言ってきた人たちに "遅すぎ、何してた⁇" って怒られるから。

……理不尽だよね。

「上がっていかないの⁇」

「うん、今日は……」

いつもだったら、喜んで家に上がらせてもらって その他諸々込みの夜を過ごすんだろうけど……。

理由をハッキリとは答えられないけれど、奈緒は他の女子とはまた別で。

彼女だから、ってことを差し引いても……今までの数多くの元カノと比べてみても やっぱり何処か特別で。

手を出さない、っていう選択が必ずしも相手のことを大切にしている証拠とは限らなくても 俺なりの誠意の証として(家に上がらせてもらったら、そんな屁理屈を捏ねている余裕なんてなくなるだろうけど)。

「お願い、上がっていって。
今日、家 誰も居ないの……淋しい。」

お願い、って言われると断りづらいな……。

「なら、本当に少しの間だけね⁇」

俺は携帯を見て、時間を確認した。
そして、 "22:00になったら 帰るから" という約束の元 奈緒の家にあがらせてもらうことにした。

一言で感想を言うとすれば、外観に劣らない内装。モデルハウスみたい。

「れーお⁇」

その場に立ち尽くしている俺。
ソファに座って 自分の隣に座るよう 促す奈緒。

俺はソファに腰掛けた。

「ねぇ、どうする⁇
テレビでも見る⁇」

「奈緒の好きにして。」

"つれないなー" って言って、とりあえず テレビをつけた奈緒。

"そう言えば、聴きたかったことがあるんだけどさ" と唐突に話を振られた。

「女遊び 凄いんでしょ⁇」

予想外すぎる質問内容で思わず咳込んでしまった。

「……まぁ、それなりに。」

もっとこう、……なんか、 "付き合ったばっかりでお互いのこと全然知らないよね" とか、言われるんだろうな、って思ってたから……。

「これまでのことを責めるつもりはない、けど これからについては口出しする権利 私にもあるよね⁇」

俺は頷く。

俺、ちょっと特殊体質(ハーフバンパイア)だから 時々 吸血しないといけない。
俺はただ、血を目的に女遊びしてただけだし。

時々 血が飲めれば 何も問題はない。

血の渇きは常に満たしていないと、限界値を超えた時に凄く大きな反動が来るらしい。

「奈緒の言うこと聞くから、多分。」

「 "多分" って、何よ。」

「無理難題を言われた時の為の予防線。」

「1週間に2回まではいいよ。
でも、リピーターを作るのはダメ。

これなら、守れそう⁇」

女遊び、許してくれんの⁇

「まぁ、女遊びを続けて欲しいとは思わないけどね。

だから、その内 女遊びダメって言うかもしれない。」

「大丈夫 暫くは控えようと思ってたから、誰とも約束してないよ。」

今、また女絡みで問題起こしたら 親にも学校にもめちゃくちゃ怒られそうだしね。

怒られ慣れてるけど、怒られるの 好きではないし。

あらかじめ回避出来そうなことは、察知して 回避していきたいと思ってる。

「てか、読者モデルしてるよね⁇」

「知ってた⁇」

「まぁ、私が読んでる雑誌にも時々載ってるし。顔も髪も特徴的だし。」

ちょい役みたいな感じで、いろんな雑誌に載せてもらったりしてるしな。

「てか、髪が特徴的なのは分かるんだけど 顔は分かんない。

顔が特徴的、ってどういうこと⁇」

「なんか、日本人離れしてる感じ。
日本人⁇」

「うん、あー、いや、ハーフ。」

母親がバンパイアなんだけど、日本人であることは日本人なんだよな。

でも、純日本人なのに 髪色が銀で眼色が黄色なのは信じてもらえないから ハーフ、っていうことにしてる。

「何処と何処⁇」

「人間とバンパイア。」

「は⁇」

当たり、キツすぎない⁇
まぁ、揶揄ってると思われてるんだろうけど。

「信じなくていいよ、仕方ないことだと思うし。」

固まったまま、動かない奈緒。

「気味が悪い⁇」

そう言って、今までも何度もなんども拒絶されてきた。

今更、そう言われたってどうでもいい。

何を言われたって、俺がバンパイア……もとい人外、化け物であることに変わりはないから。

「揶揄ってないんだよね⁇」

俺は頷いた。

「……驚いたけど、信じるね。澪緒のこと。」

変にそのことについて 話を広げられなくて助かった。

個人的に、あまりしたくないから。
何が嫌、とかは無いけど。

「まぁ、それはともかく これは、何⁇」

奈緒は俺の髪をひとまとまり手に取った。

「髪、ですけど……」

「違う、何で ここまで伸ばしたの⁇」

"何で ここまで伸ばしたの" か……。

「願掛け、かな。
時々、整えてる分には整えてるんだけど……」

「どんな内容⁇」

「喧嘩別れしちゃった人たちとまた逢いたい、仲直りしたい、ってところかな。」

願掛けの内容、って他言したらダメなんだったっけ。
……まぁ、こんなことで叶うなんて思ってないから 別にいいや。

「その人、死んでるの⁇」

思わず、吹いてしまった。

「生きてるよ、てか 結構有名人かな。
もしかしたら、奈緒も知ってる。」

メジャーデビューしてから、4年目だっけ⁇

「え……、芸能人とか⁇」

「うん、そういう系。」

奈緒は考え込んだ、 "私 知ってると思う⁇" とか、時々 聞いてきながら。

「……2人組で、デビューしてから まだ日が浅いんだよね。」

「うん、2人組で歌ってるよ。
今年でデビュー4年目かな。」

「え、もしかして、Lo;vain⁇」

「うん、Lo;vainだよ。」

"そうなんだ" とスッキリした顔の奈緒。

「私、Lo;vain好きで CDとか 全部持ってる。」

「俺も、聴いてはないけど 通常盤と限定盤の両方を全部揃えてる。」

「私、限定盤しか持ってない。
何で聴かないの⁇」

俺は少し考えた、何て言ったら伝わるんだろう⁇

何となく、避けちゃう ってだけなんだけど。

「自分がどうなるか分かんないから、じゃないかな⁇」

だって、もう何年も話してないし……2人とも、芸能界に入る時に 全ての連絡先をリセットしたらしくて、連絡先すら知らない。

強いて言うなら、今は使っていないLINEのアカウントだけ持ってる。
何を送っても 既読なんて付かない、そんなアカウントだけ。

2人と一緒にやってきた楽器だって、ストレス発散の道具としてしか見ていない。

そんな俺が今更 2人の隣に立てる訳がない。

2人の間に割って入って、歌える訳がない。

もし、2人に逢えたなら、俺はどんな反応をするんだろう⁇

"ずっと、逢いたかった" って言って、抱きつきに行くのかな⁇

"いつもTVで観てるよ、これからも頑張って" って、他人行儀に応援でもするのかな⁇

"写真撮って、あとサインも頂戴" って、ミーハーなことを要求するのかな⁇

"俺だけ、仲間外れのままだね" って嫌味言うのかな⁇

"すぐにブームなんて去るよ、精々 芸能界の底辺で這いずり回ってればいいじゃん‼︎" とかって、ヒステリックに叫ぶのかな⁇

そんな2人の曲を聴いたら⁇

感動して、泣く⁇
俺だけ除いた2人の曲に、嫉妬する⁇

……全く分からないから。
分かりたいとも思わないし。

「そういえば、今はもう会わない2人の共通の友人・仲間に宛てた曲がある って言ってた。

それ、って澪緒の事なんじゃない⁇」

「いや、あの2人 小5の時から知り合いだから 俺以外にも何人も共通の友人、ってのは居ると思う。

それに、俺 2人から嫌われたから……2人は2人だけで事務所と契約して 芸能界に入っていったんだ。

曲にしてくれるなんてことはない、ありえない。」

蓮はともかく、頼が絶対に嫌がる。

それに、そんなクサいこと 2人がするはずない。

「デビュー曲のシングルのシークレットナンバーだったと思う……けど、まぁ、違うと思うなら 違うんじゃない⁇」

考えるのを放棄したよね。笑
まぁ、別にいいけど。

携帯のアラームが鳴る。
もう帰る時間か、早かったな。

「じゃあ、俺 帰るね。」

「待って。」

立ち上がった俺はスラックスを掴まれた。

「ん⁇何かあった⁇」

「帰らないで……」

「俺、明日も学校あるし……」

明日は土曜日なんだけど、七ノ峰は中途半端な進学校だから 土曜日も午前中は授業あるから。

「朝早くに家に帰ればいいでしょ。」

そうは言ってもな……、まぁ いいか。
早い時間に起きればいいだけか……、俺 かなり朝弱いんだけどね。

「ん、分かった。そうする。
俺、朝弱いから ちゃんと起こして⁇」

"どうしよっかなー" なんて、言ってるけど 多分 ちゃんと起こしてくれる。

そんな気がする。

「吸血鬼ってさ、太陽の光が苦手なんだっけ⁇」

「うん、そうらしい。
俺は、そんなに何もないんだけど……ちょっと日光浴びただけで直ぐに日焼けしちゃう。

だから、日焼け止めが手放せないんだよね……日焼け止め塗ったら眠くなっちゃうから 好きじゃないんだけど。」

お母さん(バンパイア)は、太陽の光にかなり弱い。
だから、昼間に外に出るときは 厳重警戒体制をとってる。

なんか、太陽は生命を育むものだから 一度死を経験しているバンパイアにとっては 良くない、とか言ってた。

難しくて、あんまり覚えてないんだけど。

「日焼け止め塗って眠くなる⁇」

「え⁇ならない⁇
顔とか塗ったら、すごい眠くならない⁇」

眠く……なる、よね⁇
少なくとも、俺は眠くなる。

「なったことない。」

なら、俺 ちょっと特殊なのかも。
眠くならない人もいるんだ。

「夜型人間なの⁇」

「朝は遅いし、夜は早いよ⁇
眠たがり、って感じかな。

昼も寝てたりするし。」

「睡眠不足なの⁇」

「1日 8時間は寝てる。
あ、でも 最近は5時になったら目が覚めちゃうから 6時間かな。」

俺の住んでるマンションの近くの住宅地のゴミ場に毎朝5時くらいになると カラスが群れでくるから。

鳴き声が煩すぎて起きちゃう。

「睡眠時間長っ。」

人間は睡眠時間 8時間くらいが適切、って何かで聞いたことあるけど……。

「奈緒は、何時間睡眠⁇」

「5時間くらい。4時間くらいの日もある。」

「最近 中高生で心筋梗塞になる人が増えて来てるらしくて、その原因は睡眠不足らしい。

3〜4時間かな、そのくらいの睡眠を毎日繰り返してたら 寝てる間に心筋梗塞になって 死んじゃうんだって。

気を付けてね。」

「初めて聞いた。」

「そう⁇俺もなんで知ったのかは覚えてないけど、本当 気を付けて。」

「うん。」

って頷いた奈緒。

「じゃあ、早く寝れるように 早めにお風呂入ろ。

澪緒、先にお風呂入りたい⁇後でいい⁇」

なるほど、早速 俺の言ったことを実行しようとしてくれる、と。

お風呂入らないと、布団は入れないもん。
言った甲斐があるよね、唐突すぎるけど。

「どっちでもいい、それと 俺はシャワーだけでいいよ。」

俺ん家、基本 シャワーだけだから。
2週間に一回くらい、お湯を張って湯に浸かる。

水道代も時間も勿体無い、って 親は言ってた。

「あ、そう。
家 普段 シャワーだけだから 丁度いいや。」

毎日、ゆっくりとお湯に浸かる時間なんてないよね。

「ねぇ、タオルと石鹸とか貸して。」

「うん、勝手に使って。
タオルは澪緒がお風呂に入ってる間に用意するから。

着替えはどうするつもり⁇」

寝間着はどうするか、ってこと⁇

「着てない練習着があるから それ着る。」

今日、体育でバスケすると思ってて バスパンとかTシャツとか持って行ってたのに ハンドボールだったから 着てない。

てか、体操服着るのに 何でバスケの練習着を持って行ったのかは 俺でも謎なんだけど。

ちゃんと清潔なままの服があって良かった。
半袖半パンはちょっと寒いかもしれないけど。

「タオルとかの用意してるから、先に入ってて。」

「風呂場何処⁇」

「そこのドア開けたら、分かる。」

指差された先のドアを開けてみると、脱衣所になっていた。

すげー、カモフラージュ⁇されてる。
全然、検討もつかなかった。こんなところに風呂 あるとか。

俺は練習着諸々を持って 風呂場へ。
濡れなさそうな場所に練習着を置いて、その近くに脱いだ制服とノースリーブ(1日着てたから汚いしビニール袋に入れて)(パンツはどうしようにもないから 明日 家に帰ってから 履き替える)を置いた。

風呂に入ろうとした時、奈緒が脱衣所に入ってきた。

「「ごめん‼︎」」

俺は直ぐに風呂の中に入った。
とりあえず、そのまま 身体濡らして、髪洗って、顔洗って、身体洗って、最後に全身 濡らして 石鹸の落とし残しが無いのを確認して、シャワーを止めた。

脱衣所に手を伸ばして タオルを手に取る。
髪から拭いて、全身拭き終わってから脱衣所に出る。

ササッと服を着て、制服とか自分の持ち物を持って リビングに戻る。

「ねぇ、使ったタオル どうしたらいい⁇」

「洗濯機に入れといて。」

言われた通りにして、リビングに戻り ソファに座る。

目が乾燥して コンタクトが痛くなってきたから、コンタクトを外した。
風呂上がったばっかりで曇るから 眼鏡は暫くしないままでいいや。

「澪緒、髪 濡れたままじゃん。
ドライヤーは⁇」

「いつもしてない、面倒いし。」

"もう‼︎" とか言いながら、奈緒はドライヤーを持ってきた。

「文句言うの無しだからね⁇」

奈緒は俺の髪を乾かしてくれてる。
俺、髪 触られるの好きだし、それに凄く気持ち良い。

……まぁ、多少の手荒さはあるけど。

「このくらいでいい⁇」

ある程度乾いたところで、奈緒は 手を止めた。

「うん、ありがとう。」

「こんなに伸ばしてるのに、ケアとか何もしてないの⁇」

ドライヤーのコンセントを抜いてコードを巻いてる奈緒。

「うん、何もしてない。
朝、寝癖がついてたら ヘアアイロン⁇コテ⁇使って 直すくらい。」

「髪 濡れたままだと傷むから、ドライヤーはしたほうがいいと思うけど⁇

ドライヤーする手間が嫌なら、短くしたほうがいいんじゃないの⁇」

「別に、髪 傷んでてもいいし……。」

毛先くらいなら時々、切りに行ったりしてるし。

「じゃあ、もし 私が澪緒に短髪にして欲しい、って言ったら 言うこと聞く⁇」

「……ん⁇
髪を切るのは 別にいいけど、短髪は嫌かな。

例えば、どんなのがいいの⁇」

別にいいけどとか言いながら、切るつもりはさらさらないけど、聞くだけ聞いてみる。

「刈り上げマッシュとか。」

「あー……、俺 絶対似合わないと思うんだよね、マッシュ。
あと、マッシュの良さが分からない。」

「えー……なんで⁇マッシュ、カッコいいじゃん‼︎」

「奈緒がすればいいじゃん、……まぁ、俺は長髪が好きだから あんまり切らないで欲しいけど。」

奈緒はショートボブ。
似合ってるし、敢えて 伸ばして欲しいとも思わないかな。

「いや、短髪でしょ‼︎」

「いやいや、長髪だね。」

「短髪!」

「長髪!!」

いや、なんだ⁇このやり取りは。

「まぁ、いいや。
じゃあ、お風呂入ってくる、けど 絶対 覗いたりしないでよ⁉︎」

「しないしない、安心して。」

ていうか、風呂を覗こうとする素振りでも見せた⁇見せてないよね⁇
風呂場へ行った奈緒。

俺はさっき脱いだ制服とか畳んだり、片付けたりした。

それから、携帯を触った。
お母さんから、メッチャLINE来てるし。

"今日、泊まるから 明日帰ります" って送ったから、オッケーだよね。

Twitterして、ゲームして。
携帯触ってたら、眠くなってきて 段々と瞼が重くなってくる。

バチンー、と頬を叩かれて起きる。

「……んぁ、寝てた⁇」

「うん、バリバリ 爆睡してたし。」

「ごめん……」

寝惚け眼を擦って、目薬をさした。
俺、どうやら寝てる間 目が開いてるらしくて 起きると目が乾燥して痛いんだよね。

目薬をさしてから、眼鏡をかけた。
周りが良く見えないから。

「眠いなら、私の部屋行く⁇」

「ん……、眠い。
けど、別にまだ寝なくていい。」

「今まで寝てたくせに。

あ、そうだ。
七ノ峰ってさ、今 数学 何やってんの⁇」

「……ん⁇指数関数かな。
あんまり授業聞いてないから分かんないけど。

理系なんだけど、数学がどうもできないんだよねー。」

「何それ、ヤバイでしょ。」

そんなドン引きして言わないでほしい。

「だって、医療系の道に進みたいから。」

一年の時の文理選択でメッチャ迷ったけど、理系にしたんだよな。

周りには、文系を勧められたけど。

文系の学部に行きたいところが無くて、本当 医学とか医療系以外に興味無いんだよな……。

医学部は学力的に絶対に無理だから、医療系学部進学で考えてる。

「まぁ、いいや。
成績はどのくらい⁇」

「あ、そういや 今日 7月の模試の結果 帰ってきた。」

学校のカバンのファイルの中から模試の結果を取り出す。

「……本当に今回はヤバイから。」

「……私の、見る⁇」

頷くと、奈緒は自分の分の模試の結果を机の上に出した。

「……うわ、偏差値60後半ばっかじゃん。
1番低くて 67って何、嫌味じゃん……」

「そうね、1番低いのを比べて 偏差値20違うもん。

……そんなに何ができないの⁇」

俺の最低偏差値は数学で47.8。
奈緒の最低偏差値は英語で67.2。

「1番言っちゃいけない事、言うよ⁇」

「うん。」

奈緒が真剣な顔してる。

「何が分からないのかが分からない。
それと、計算ミスとかケアレスミスが多いかなー⁇」

奈緒は呆れ果てて、溜息をついた。

「真っ先に復讐してほしい単元、小問集合って何⁉︎

数学の小問集合は点を取るところでしょ……」

俺も、少し前まではそう思っていたよ。
そうなんだ、小問集合は点を取らないといけないところなんだ。

「数学の面倒見てあげるから、ちゃんと数学してね……」

「分かった!」

会話が途切れ、沈黙が続く。

……何か、喋ったほうがいい⁇

でも、わざと無理してまで喋らなくても 沈黙でも、居心地が良い。

少なくとも、俺はそう思う。

「眠い⁇」

「……うん、眠い、かも。」

そこで俺は一つ 大あくびをかました。

「じゃあ、上 行こっか。
付いてきて。」

リビングを片付けてから、奈緒は二階の自分の部屋に俺を通した。

碧生・吏夷(妹)の部屋も大抵 物が少ないんだけど 奈緒の部屋はそれと同じか それよりも物が少なかった。

「……ってか、部屋 広くない⁇」

広い、よね⁇

勉強机とか本棚とかベッドが奥の方にあって 手前にはソファと小さい丸テーブル。

それが窮屈なく配置されている。

俺の部屋(5.5畳)と比べて 大分広い。
少なくとも、1.5倍はある。

いいな、羨ましいな。

「ソファで寝るか、ベッドで寝るか。
どっちがいい⁇」

ソファの背もたれをリクライニングさせて、ベッドみたいな形状にする奈緒。

「……ソファで大丈夫。
てか、最早 この部屋にベッド 2つあるじゃん。」

「なんか、そうね。
じゃあ、テキトーに掛け布団と枕 持ってくるから ちょっと待ってて。」

ソファに座って 奈緒の帰りを待つ。

「澪緒、下 降りてきて!!!」

階下から叫ばれるのを聞いて 指示通りに動くと 奈緒は布団で前が見えない状態になっていた。

「これ、上に持っていって。
これ使って、寝て。」

「分かった。」

奈緒から布団を受け取って そのまま奈緒の部屋へと持ち帰る。

ソファの上で もらったものを広げたりして 寝床を作る。

「掛け布団、それで良かった⁇」

「うん、ありがとう。」

「私はタオルケットで寝るけど。」

「俺、一年中 冬用の掛け布団で寝てるから。」

「マジか、なら 丁度良かった。」

「ねぇ。」

「何⁇」

「なんか、楽しくなってきちゃった。
お泊まり会の気分。」

奈緒が "はぁ⁇" って顔で俺を見る。

「何でそんな顔するの⁇」

「いや、ちょっと呆れた。
気にしなくて良いよ、私が勝手に澪緒に呆れただけだから。」

「何それ、まぁ 別にいいけど……なんか、寂しい……。」

俺は布団に包まって 寝転がった。

「何、もう寝るの⁇」

「どっちでもいいけど とりあえず布団にくるまりたかったから。」

布団の中でゴロゴロしてた。
もちろん、携帯触りながら。

「ねぇ、昨日はごめん。」

急に謝られたから、びっくりした。

「悪いのは奈緒じゃないでしょ⁇

もう、名前も覚えてないけど あの背の小さい松坂の女の子と俺が悪いんだから。」

まぁ、学校出てすぐにビンタされたところで多少は嫌な思いもしたけどさ。

奈緒は友達(⁇)に 嘘言われてたんだし、仕方ないよね。

そもそも、知らない女の子について行っちゃった俺が悪いし。

"道に迷っちゃったので 駅まで案内してもらえませんか⁇" って言われて 案内しちゃったんだよな。

そうしたら、そのまま よく分からない廃墟みたいなアパートに連れ込まれて。

不法侵入、ってバレなかっただけマシ⁇

でも、あのアパートの部屋 家具も何もなくて 生活感なかったんだよな……。

なのに、掃除はされてたし。

そして、部屋の鍵は開きっぱなしだった。

考えても分からないから、考えるの 辞めよう。

「 "向坂雛" 。
名前 覚えるの苦手⁇」

「いや、得意な方。
でも、本当に興味がない人の名前は覚えられない。」

「なら、私には興味あった、ってこと⁇」

「……そうなんじゃない⁇」

なんか 恥ずかしくなってしまって布団に顔を沈めた。

「あ、そうだ。
奈緒のお家の人 よくこういう風に 家を空けるの⁇」

沈めた顔 3秒後には もう浮上していた。

「うん、もう慣れちゃったけど 時々 寂しくなる。」

「そうなんだ、お仕事 忙しいんだね。」

うちのお父さんは家に帰ってくるのがすごく早い。

俺が家に着く頃には もう既に帰ってきている。

……まぁ、単に俺が遅くまで帰ってこないだけなのかもしれないけど。

「お父さん、お母さんが頑張ってくれているから 今の私がいるし。

有難いとは思ってるよ⁇」

俺の家とか、毎日 家族全員揃ってるから 毎日 馬鹿みたいに騒がしい。

真逆なんだな……。

「ちょっと、澪緒 こっち来て。」

そう言われて、渋々 布団から出る。
奈緒に背を向けて座るよう言われて、そのように座る。

すっごい髪 触られてる。
髪 触られるの好きだから、いいけどさ。

「髪くくったら ちょっとはカッコいいよ。」

真ん中のあたりでポニーテールにされていた。

「……下ろしてる時は⁇」

「なんか、隠キャっぽいかもしれない。」

「……マジか、まぁ 事実だけど。」

「ねぇ、この縛り目で切ってもいい⁇」

「そんなに、長髪嫌なの⁇」

「嫌。」

……まぁ、男でロン毛って受け入れられ難いよね。

いや、本当 切ってもいいんだけど、切りたくないんだよ。

俺、髪 切りに行って 新しい髪型が似合ってると思ったことがないから。

別に失敗されてる訳じゃないんだけど、短髪が似合わないみたいで。

でも、人を不快にさせてまで伸ばす意味はないし。

「……分かった、じゃあ 今度 髪切りに行って 短髪にしてもらう。」

今、肩甲骨の辺りまで伸びてきて やっと寝癖が落ち着いてきたんだけどな……。

「無理、してない⁇」

「無理はしてる。
でも、奈緒の為なら いいよ。

彼氏がロン毛とか、嫌だもんね。」

奈緒が背後から抱きしめる。

「無理するくらいなら、今のままで居て。
十分、カッコいいよ。」

「……ごめん。」

その声も掠れてて 上手く伝わらなかったと思う。

「ちょっと揶揄ってみただけだから。
真に受けないでよ。」

と奈緒は笑った。

……普通に真に受けちゃった。

首を捻って、奈緒にキスする。

バシンッって両手で背中を叩かれた。

「痛ー。」

俺は叩かれたままに上半身を倒した。

まぁ、体が硬いからそんなに思うままに長座体前屈できてないけど。

「馬鹿!!!本当、馬鹿!!!
もう、寝ろ!!!」

「……はいはい、もう寝ますよ。」

立つの面倒くさいから、膝立ちで俺の寝床まで移動する。

「ねぇ。」

声をかけられて振り向く。

「……その……過剰に反応しちゃって、ごめん。」

奈緒はタオルケットにくるまってて 顔だけが出ていた。

俺は首を傾げた。
……過剰に反応⁇されたっけ⁇

「分かんないなら、もういい!!!
おやすみ!!!」

電気を消された。

真っ暗……、まぁ 夜目が利くから寝床には辿り着いたけど。

「俺さ、豆電球つける派なんだよね⁇」

「私は真っ暗じゃないと眠れない、目を閉じれば一緒でしょ⁇」

「……ソウデスネ。」

確かに目を閉じれば 真っ暗かもしれないけどさ……、そうじゃないんだよ……。

「何⁇不満でも⁇」

「いや、いいです。
泊めてもらってる身なんで、文句言いません。

おやすみ。」

目を閉じても、なんだか落ち着かなくてなかなか眠れなかった。

その割には、翌朝 奈緒に耳元で "澪緒!!!早く起きて!!!" って大声で叫んでもらうくらいまでには 熟睡していた。