涙の、もっと奥のほう。

普通なら怖くて一人でいられないのだろうけど、怖くなかった。

「お母さん!!!ただいま!!!」

大きな声で言ってみた。

当然返事は無い。

だけど少しだけ空気が動いたような気がする。

まるで手前の台所から、記憶にはないお母さんが笑顔で『おかえり』そう言って迎えてくれているような…

仏壇の前に座る。

お母さんはいつもと変わらない笑顔で、黒の額縁の中から笑いかけている。

「お母さん」

線香を今日はあげなかった。

お母さんはこの家の中にいるのだから、あげる必要はない。