涙の、もっと奥のほう。

和哉の席につくと、言いたい事が言えた。

それが楽で、和哉が来るのが楽しみでもあった。

「江奈、お前自分で店持つ気ないか」

あまりに突然な疑問詞に、私は酒をこぼした。

「店って…スナックでしょ?」
「そうだよ。それ以外に何の店持つんだよ」
「無理無理!私には無理だよ。私がママとかありえないでしょ」

絶対無理だと言う確信があった。

おおざっぱで、無愛想で、無口で無計画な私にママなんて大役は無理だ。

「お前の性格だからいいんだよ。あれこれ考えるな」

ほとんどロックの酒は飲み干した和哉は優しいほほえみを投げ掛けてきた。