彼女は、墓標をにらみつけていた。

 こんな憎しみをこめた横顔を見るのは、初めてだった。

 その顔が、ゆっくりと緩むと、頬に涙が光った。

「お父さん」
 はっきりとした声が聞こえた。

「どうしてわたし、こうなんだろう」

 僕は、背を向けて、むせび泣く彼女からゆっくりと遠ざかった。

 彼女は絶対に僕のもとへは戻ってこない。
 それがわかったからだ。

 虚ろな気持ちで、帰路についた。

 もう二度と、この土は踏まない。

 くすんだ空の下に、遠く近く、海が見える。
 みすぼらしい駅舎に、電車がすべりこんできた。