教室でパート練習をした後、音楽室で1回音合わせをするのが今日の流れだ。

美雨が日直として鍵を借りてから急ぎ足で行くと、音楽室にはまだ誰も来ていなくてホッとする。一部パート交代をすると言ってたから、教室での話し合いが伸びているのだろう。

黒々としたグランドピアノをちょっと触ってみると、ポーンときれいな高音が広い部屋に響いた。

覚えてしまった合唱曲の前奏を軽く弾いてみる。狭い部屋の電子ピアノとは全く違う解放感。気持ちいいなぁと途中を飛ばしてサビ部分につなげて弾いてから、誰かが来る前に終わらせた。

うん、1人で好きなように弾くのが好きだな、と美雨は改めて思う。

そこにクラスメイト達が歩いてくるがやがやした声が聞こえ、音楽室へ真尋が駆け込んできた。ピアノの前に美雨を見つけて目を見張る。

「今のって、美雨ちゃん? うまいじゃん!」

ドアを閉めていなかったことに気づいた時には、何人かクラスメイトが後に続いて入って来ていた。

「ピアノ習ってたんだね」「なんで言わなかったの? うまいのに」とざわざわし始めたところに、妙に明るい沙織の声が響く。

「すごいよね、やっぱり美雨が弾いた方がいいかも。私無理そうなんだよね」

どうして?と美雨は目を見開くが沙織はこちらを見てはいなかった。

周りも勢いづいて「そうだね、だったら伴奏者変更でいいか」と話が進み始め、美雨のパートはソプラノかと確認された。

「そうだけど、でも伴奏はできないの」

さすがに言ってみるのだが、盛り上がったクラスのメンバーは話を聞いてくれない。