「そんな顔真っ赤にして怒るところじゃないだろ」

意地悪く羽鳥が言う。その直後ほとんど口の中で小さくつぶやかれた言葉に、美雨の顔はさらに紅潮していく。

『ほんっとかわいいよなぁ』

そう聞こえた。

でも怒って顔を赤くしているのが女子としてかわいいわけはない。国語はそれほど得意でない羽鳥はきっと語彙が足りてない。

からかいがいがあるとかそんな意味なんだ。そう思おうとしても、美雨が真顔でいるのは難しいことだった。

「美雨、他にも気分のいいことを探しておいで」

素知らぬ様子で、宿題のようにリトが告げた。





羽鳥が頑張らなくてはならないらしい期末試験が近づいて来ていた。沙織には約束通り羽鳥が数学を教えているらしい。

美雨は羽鳥とクラスで不必要に話さないように気をつけている。でも、よそよそしいのがかえって不審がられるのではとも感じる。考えるほどわからない。

羽鳥の方は、美雨の部屋では普通に寛いでいる。そして学校では普通に他人だ。用があるときには「中園」と正しくそっけなく話しかけて来る。沙織の前でも変わらずに。