先生は2人の肩を叩いて離れていき、羽鳥と2人残される。

「すげえ褒められてるし」

「いつもがダメだからね」

「頑張ったじゃん、ほんと。俺あのまま真っ赤になって倒れるかと思った。それか終わった途端寝るとか」

「寝ないよ!」

リトとつながる度に自分だけが消耗していること、つまり自分の力を使っているらしいということは、いつも美雨をどこか不安にさせてはいるけれど。

イベント後の高揚感で、そのことすらも笑いに変えられる。

「叶った?」

答えを知っているくせに、笑いながら羽鳥が聞く。美雨は心からの感謝を込めて答えた。

「うん。ありがとう、羽鳥のおかげ」

「いや、別に俺は面白がってただけだから。リトに言えば」

突然ぶっきらぼうになる羽鳥は、自分で思っている以上に優しいんだと思う。

どこまでリトのおかげなのかなぁ、それはよくわからない、と考えながら「教室に戻るね」と羽鳥に告げ、美雨はいい気分で弾むように廊下へと歩き出した。



多目的エリアの片付けは終わっていたが、沙織は先に行ってしまったんだろうか。廊下の先を図書委員たちが歩いていくのが見えるが沙織はいないようだ。

「美雨、これお前の?」

後ろから声をかけられて振り向く。

置き忘れたらしい黄色い小鳥柄のシャーペンをバトンのように手渡すと、羽鳥は「広田先輩!」と発表した3年生の名前を呼び、そのまま走って行った。



だから羽鳥は気づいていない。自分のすぐ後ろに沙織がいたことに。

沙織は、美雨を見ていた。

『美雨』と羽鳥が呼んだことに沙織も当然気づいただろう。沙織は何も言わず、ただ驚いたように美雨を見て、その場で踵を返した。



美雨はなすすべもなく、歩き去る背中をおろおろと見送った。

怖い。

わけもわからずそう感じるのは久しぶりだと、最近ずっと気楽に楽しく過ごしていたんだと、今になって気づいた。