「そっちは?」とつまらなそうに聞いてくる羽鳥は、そんな反応には慣れているようだ。
「私もひとつだけど、3回受けて全部だめだった」と美雨も正直に告げる。
「そりゃ、だんだん難易度あがるしな」
そう。初日の試験で上位校に落ちた子達は、滑り止めとして翌日以降少しずつ偏差値の低い学校を受ける。同じ学校を受け続けると、だんだん募集人数が減る上に、より頭のいい子が受けに来る。
つまり、同じ学校を受け続けていれば受かるということはあまりない。中学受験の常識だ。
お互いに言わなかったけれど、理解した。思っていた以上の共通点。
確実に受かる滑り止め校を受けない。
つまり、行かなきゃいけない学校が最初から決まっていて、その期待に到達できなかった子ども。
そういうことなんだ。
「なんだっけ、ノート?見てもいい?」
羽鳥が話題を変えた。美雨は学習机から取り出して分厚いノートを渡す。先週の会話は3ページにわたって再現してある。
「完璧じゃん。今日のも書ける?」
「話しながらメモしたし、今日中に書けばたぶん。ずっとは覚えてられないけど」
「すごいな、お前」
頭のいい羽鳥にそう言われると悪い気はしない。
「でもさ、こういうのは見られないわけ?」
誰にとは聞かれなかったが、こう言う場合もちろん親にだ。
「机に鍵かけてて、その鍵学校にも持っていってるから」
「なんか大変だな、お前んちも」
『も』ということは羽鳥も何か大変なんだろう。でももちろん聞けなかった。誰だって、親との微妙な関係を聞かれたくなんかないだろう。


