「ノート、借りたままだよな」

羽鳥がぽつりと言う。美雨もいい機会だと気づいて「返してもらっていい?」と聞いた。羽鳥は意地悪そうににやりと笑顔になった。

「受かったら返す」

「私が?」

「俺も」

「落ちたら?」

「破って捨ててやる」

「最低」

美雨がわざと眉をひそめると「記憶力いいんだから受かるだろ」と笑った。

少しかがむようにして「返すよ、絶対」と前よりも低くなった声で小さく付け足す。相変わらずの無神経な反則行為だ。



「心から望むことって言い切れる?」

と美雨が尋ねる。

「今、自分のことで、一番やりたいことを全力でやってる」

羽鳥がよどみなく応えた。

だったらきっと叶うはずだと思いつつ、「結果にはこだわらない」と美雨は3つ目の秘訣をつぶやく。

「そんなの無理だろ。受からせろよ、リト」

空に向けて羽鳥が言って、美雨はふきだした。いつか見た気がする優しげな笑顔で、羽鳥も笑っていた。

どこからか聞こえた鳥の声に美雨も冬空を見上げた。

春には、きっと。




THE END