昨日の夜のあの声はなんだったんだろう。最初はいつも通りだったんだ。

「リト、エサをかえるね」と鳥かごを開くと、赤い目をした黄色いインコは素早く奥へと逃げていった。

「今日はね、社会の時間に寝ちゃってた人がいてね」

と学校の様子を話すのも日課の1つ。いちいち質問したり心配したりされるより、こうやって独り言のように吐き出している方が心地よいと美雨は思っている。



おじいちゃんの家で保護された臆病なインコを引き取ったのは1年前の夏。

慣れたらほっぺたを撫でてあげよう。手のりになったらいいな。おしゃべりするようになるかもしれないから、リトの変化も記録するノートも用意しよう。

自分の部屋に白い鳥かごをつるして想像したそれが浅はかな期待だったと思い知るには、十分に長い時間が過ぎた。

リトは手乗りどころか、美雨が顔を少し近づけただけで用心深くかごの奥へと移動する。リト・ノートに書くこともほとんどない。

無駄な努力かな、と考えてから頭を振った。

「そんなことない。失敗したって諦めなければいいの」

思わずママの口癖をつぶやいている自分に気づいて苦笑いした。