【サヨナラまであと何秒?】
───────…19歳、10代最後のこの年に。
私、霜村茜は久しぶりの恋に落ちた。
「あっ、竜樹さん……!
おはようございます!」
「おはよう、茜ちゃん」
その相手が今、挨拶を交わした一つ上の先輩の水澤竜樹さん。
あ~~っ!
この微笑がたまらんんん……!
背がスラッと高くて顔立ちが整っているのはもちろんで、たまに抜けている天然さのギャップが魅力をグッと高めている。
初対面では寡黙で怖そうなイメージが強かったが色々と関わっていくうちに優しくて思慮深い竜樹さんの虜に。
「ねぇ見た見た!?
あの天使の微笑みィィィィ」
「……はいはい。見ましたよー」
友人の呆れる声も何のその。
私は既に竜樹さんしか見えていない。
その存在を知ったのは専門学校に入学して半年してからだが。
その時から着実に堅実に距離を詰めてまた半年経ち。
入学して一年経ちようやく気軽に会話を交わせるようになった。
「てかもう早く告白しちゃえばいいのに。
二年しか無いんだから憧れの先輩ももう卒業だよ?」
「告白なんて……そんな!!
出来ないし、絶対しない!!」
「哀しい片想いですことー。
そんなんだと誰かに横からスッと取られちゃうんじゃない?」
「それで竜樹さんが幸せなら……
あたしはそれでいいんだ」
元からあんなに完璧な人と釣り合う自信なんて皆無だ。
静かに、音もなく私の心の中で想いが膨らんでいく。
どうしようもなくなった時は穴を空けてしまえば簡単なことだ。
この想いはきっと容易に萎んでしまう。
こうして想うだけで幸せだ。
下手に駆け引きをして傷付くのはもうごめんだから。
恋をして傷付き方を知る度に臆病になっていく。
「今のこの距離感を……
大事にしていたいんだ」
叶わなくてもいい。
ただ……竜樹さんが誰かと幸せそうに笑っていてくれたら……
「茜がそう言うなら黙ってるけどさ。
あんまり溜め込まないでよ?」
「うん。ありがとう菜穂」
声をかければ当たり前のように返事をしてくれる。
困っていたら進んで声をかけてくれる。
その事実だけで私は充分満足なのだ。
それに会話をある程度交わしていれば特別な好意があるかないのか多少は分かる。
今告白してみてもきっと叶わない。
そう感じ取れるから周りを硝子の破片で囲まれているかのようにその場に動けず留まっている。
進むことも戻ることも出来ないこの恋。
卒業したら竜樹さんはこの学校を去り、就職する。
田舎のこの県から東京で就職するために引っ越すらしい。
「……卒業したらこうして毎日……話せなくなるんだよね……」
「そうだって。
だから今、悔いのないように行動しなくちゃ」
「……うん」
私はきっと……
このまま想いを伝えなくても後悔しない。
フラレて恥をかくぐらいならこのままの方がずっとずっと良いからだ。
それに私が竜樹さんと付き合おうなんて欲深いことを考えちゃいけない。
こうして会話を交わせることに幸せだと思わなくては。
こうしている間にも刻一刻と竜樹さんとの別れは近付いてくる。
サヨナラまであと一ヶ月…────────