孤児院『あったかホーム』で自殺するのは、お世話になった先生や友達に失礼で、何より心に深い傷を負わせてしまうかもしれない。

誰も知らない、誰もいないところで孤独に死のう…。
それが最適な手段で最善策なのだ。

「…?」
ホームの近く、道端に落ちていたのはヘアピンのようなもの。
「綺麗…」
夕日に翳すと蝶の形になった紫色の宝石が輝く。
誰かが落としたものだろうか。
それとも、まさかホームの子じゃないだろうか。
「あ…っ、それ私の…」

たちまち大きな風が吹いた。
振り向くと、綺麗な少女が後ろに立っていた。
「…え?」
「それ、私のヘアピンなの」
見たところ同じくらいの歳だ。
ベージュ系に近い色の髪が長く腰まで流れていて、小さな顔にアーモンド型の綺麗な瞳と凛々しい鼻、小さな薄紅色の唇があり、とても…
「可愛い…」
「…え?」
「あ…あっ、ごめんなさい!ど、どうぞ!」
口走ってしまったようだ。
「あ、まって…!」

…?

『針やま公園』
その名は悪い意味で有名だった。
元の名前は『愛やま公園』
綺麗な緑と風通しがいい公園だったけど、
近くに住む不良たちが荒らし、マーカーやペンキの落書きと、あちこちに落ちているゴミ、生えっぱなしの草の公園に変わった。

「ここ…」
「『愛やま公園』よ。私、ここを綺麗にするのが趣味なの」
「えっ?」
『綺麗にする』…?ここを?
「そ、それって…」
「ええ、私にメリットはないし、はっきり言って手遅れかもしれない。でも決めたことなの」
彼女は大きく手を広げた。
「いつか、この公園が前みたいな綺麗な公園になって、それを見たい。それが私の夢だから」
「…!」
彼女の横髪に飾られているヘアピン、それよりも夕日に照らされて輝いていたのは彼女の瞳だった。
自殺を考えていた私が馬鹿に思えてきた。
「あ、あの…っ」
「ん?」
「お、お手伝い…しても、いい?」
「ほんと!?」
「あ…、うん…っ!」

偽りの表情は何度も見てきた。
作った笑顔の裏側には嘘があるから、どうしても本来の笑顔に似せることはできない。
偽りの笑顔か、本来の笑顔なのかのジャッジはいつもしていたから慣れてきた。

でも彼女のこの笑顔は、嘘を知らないようだった。


「私、水瀬花鳥(みなせ あとり)。あなたは?」
「あ、島崎 璃都(しまさき りつ)…」