誰かを信じるということは自分にリスクを賭けるということ。

「璃都(りつ)?聞いてんのかよ」

《友情》や《信頼》なんて尚更。
自分を犠牲にしたって幸せな未来が必ずしもくるということはない。

「くっそ、役にたたねーパシリだな」

自分を抑えたって、我慢したって、私の世界には誰も入ってきてくれないのだ。

バシャッ!

突如、上から水が降ってきた。

冷たい…。

「ごっめーん、手が滑っちゃったぁー」
水が入っていたバケツにはマーカーで『トイレ用』と書いてあった。
これはトイレの水なんだろう。
「ご、ごめん…なさい…っ」

私がこのクラスで『いじめ』にあっている理由、その大きな原因はーーー。

「あっははっ、だからまともな親がいねーやつは困んだよ」

《親がいない》ということだろう。
幼い頃に両親が他界し、今は孤児院で暮らしている。
孤児院にいられるのは高校卒業までで、今の高校2年生の私には、あと2年。

黙って、ただただ静かに。
誰もいない教室、誰もいない世界でこうやって生きることで私が成り立っているのだ。

「あやちん、あやちん!ゆうとが『ゲーセン行くから来ない?』だって!まだ授業あるけど、あとは午後だけだしー?一緒に行こーよ!」
「マジ?行こ行こー」

やっと、やっといなくなった…。

いつも午後の授業には出ない彼女らは最悪の場合、登校さえしないときもある。
そんな不良グループの最初のターゲットは冴えない私だった。

「だ、大丈夫…?りっちゃん…っ」
いつも助けてくれるのは、ほむちゃん…、
會田 焔(あいだ ほむら)だ。
「うん、大丈夫…ありがとう」

笑顔、笑顔…。

上手に振る舞うには笑顔が必須。
いつもそうやって“彼女らがいるときには助けてもくれないこの人たち”にも普通に振る舞う。

私なんかいなくなればいい。

何度も考えた《自殺計画》。
怖くて、寸前でおののいて未遂で終わっていた。

今日こそは、いける気がした。



「りっちゃん、一緒に帰らない?」
放課後のSHRが終わり、ほむちゃんが話しかけてきた。
ほむちゃんが来るのは、あの取り巻きグループがいないとき。
それ以外は目も合わせてくれない。
「ごめんね…今日はちょっと忙しいかも…」
「そ、そっか!わかった、じゃあカコちゃんと帰るね」
『バイバイ』とお互い言ったあとで別れた。
ほむちゃんと私は性格が似ているところがあって、すぐ仲良くなった。
でも、きっと陰で裏切られている。
目を見れば分かる。カコちゃんは元あの取り巻きグループにいたから、わりと強い性格をしている。そんなカコちゃんと一緒にいる時は2人で私を睨むように見ている。
蔑みながら、睨んでいる。

被害妄想であるなら、それでいい。
それがいい。