二人だけの秘密




『4月10日《木》午後11時5分』




太陽はとっくに西に沈み、目を閉じているかのように真っ暗な夜を迎えていた。果てしない夜空には黄色い満月が浮かんでおり、昼間と違って夜風が涼しく吹く。僕の心のように真っ暗な夜空に、一際目立つ懐中電灯のように眩い満月。今日の夜空は星が少ないせいか、より一層満月が輝きを増しているように感じる。

平日のこの時間帯にもなると近所の家の部屋の灯りも消え、明日の仕事や学校に行くために早く眠りに入る人も多い。もちろん、愛犬のビーグルは眠っていた。

ーーーーーーいいなぁ。

正座しながら心の中でそう思った僕。

「なんでこんな変な子が、私のお腹から産まれてきたのかしら?人に向かって、ハサミを投げるなんて………」

母の嗚咽声が、僕の耳に届いた。母親はフローリングの床に両膝をついて、顔を覆って涙を流している。

「未来!高校生にもなって、そんな常識的な判断も分からないのか?」

ダイニングチェアに足を組んで王様のように偉そうに座っていた父親が、僕に激怒する。いつも僕に怒ってばっかりの父親だが、今日はいつも以上に怒っている。

「ほんと、そんなこともわからなかったの?危険やろ、そんな物投げたら?」

父親に続いて、母親が潤んだ目で僕に訊く。

「………」

僕はギリギリと奥歯を噛みしめ、母親を睨んだ。僕の視界が滲んでいたのは、涙がうっすらと溜まっていたからだろう。

「なに、泣いてんのー。泣きたいのは、こっちやわー。こんな子でも、育てていかないとあかんのやから」

母親が顔を覆い、強い口調で言う。

「未来。なんで、ハサミなんか投げたんや。本気で分からなくて投げたのか、それとも、理由があって投げたのか?」

父親は眉間にしわを寄せ、問い詰めるように僕に訊く。

ーーーーーー療育手帳をみんなにバレて、いじめられたからです。それが嫌で、ハサミを投げました。分かりましたか?家ばっかり偉そうにしているジィジィと、他人とよく比較するバァバァ。

しかし、そんなことを言えない僕は、口を真一文字に結んだままうつむく。

「チィ、もういいわ。もう寝ろ」

父はものすごい剣幕で怒り、ダイニングテーブルを拳でドンと叩いた。その父親の怒った表情を感じ取り、母親が素早く自分の部屋に戻った。

「…………」

僕もその場から立ち上がり、二階の自分の寝室に戻ってiPadを開いてなにげなくネットニュースを確認した。

『風俗嬢強姦事件で、新たな動きがありました。被害に遭われた娘さんの父親が、加害者の男子大学生数名を次々にナイフで切りつけました。現場には大量の血痕が残り、切りつけられた男子大学生は一名は死亡し、他数名は意識不明の重体です。犯人の動機は、娘さんの復讐だと思われます』

僕がiPadを開いてネットニュースを確認したら、この前のニュースが新しく入っていた。

ーーーーーーこのお父さん、きっとやり返したんだろうなぁ。

推測にしか過ぎないが、僕はなんとくこのニュースの容疑者の動機の気持ちがわかる気がした。百パーセントではないが。