「…何か、悲しそうな複雑そうな、そんな顔。してましたよ?」
ささっとさっき取りだしたケーキたちを可愛い茶色の箱に入れていくと、お姉さんはあたしの顔を見て、
「ビスケット、サービスしときますね?」
そう言って、笑って。
あ、この笑顔、誰かに似てるってずっと思ってたけど…、結衣ちゃんです。結衣ちゃんにそっくりです。
「いいんですかぁ…っ?!」
飛び付くようにそう言って聞くと、『はい』ってまた笑顔で返してくれて、あたし自身もとても嬉しい気持ちになって。
最後には『また来てくださいね』って、
そう言ってくれたので『また来ますね』って笑ってそう言ってあたしはドアを開けて外に出た。
…どっちのケーキから先に食べましょう?
なんて、呑気なことを考えながら空を見上げてみると、もう薄らと赤みかかっていて…
もう夕方ですね…、
でもやっぱり、一人になってしまうとたくさんの悩みとか出来事を思い出してしまって。
「…バットくん、元気かなぁ?」
気付けばまた溜め息。
単純にこの気持ちが“恋”なんだと気付けたら良いものの、鈍感な奏音が気付くはずもなく、
京香のことも、好きだから気になってしまったのに…
『苛々する』って言葉だって、好きだから傷ついたのに、まだその事にも気が付かずにボーっと寮までの帰り道を歩いていく奏音。
頭の中は今日どうやってケーキを食べるか。
それとバットくんのことだけ。

