「…さっきはありがとうございましたっ」
ニコッと笑って奏音は蓮二より一歩先を歩いて行く。
でもその笑顔が少し、
本当に心から笑っているようには見えなかった。
「何で言わなかった…?」
「…え、?」
「どうして言い返さなかった?」
何だかいつも見る姫山先輩とは違って、ちょっと真剣な表情。
あまりにも真っすぐにあたしの目を見るから…
「あたし、友達いないんです、
…何だか人と価値観も好きなものも違うみたいで、やっぱり変な目で見られることが多くて、」
「…うん、」
いつもなら『友達いないなんてヤバいだろお前』とか言ってくるのに、
…『うん』と一言。
真面目に話を聞いてくれてるんだと感じるような。
「その中でも仲良くしてくれたのが結衣ちゃんと恵ちゃんで、…あとは中等部の時から一緒の隼人くん、」
「…そっかぁ、」
「でも、ウーちゃんもいますし…
…あっ!!今日はウーちゃんが届くんです!」
さっきまでの泣きそうな顔はどこへ消えてしまったのか…
急にパァッと明るくなる奏音の表情。
「届く…?」
不思議そうな蓮二の表情。
「はいっ!!
…早く帰らなきゃっ!さよなら、先輩っ」
せっかく送ってやったのに、あっという間に走り去った奏音の背中を見て苦笑い。
「…変な女」

