「え、河合さん? 待って、泣くくらい嫌だった?」
「ばか真樹!何で、そんな事すんのよ」
次々と溢れてくる涙を両手で拭う。そんな私の前で、あたふたとし始める彼の胸元を拳で叩いた。
「あの日……藤田さんと二人でご飯に行くって言った日の夜だって、キス、したでしょ」
あからさまに「バレてたか」という顔をすると、彼は「したかったから、しちゃいました」なんて、そこらへんの容疑者のような事を言い出す。
ゲームだけしか能の無いヲタクかと思いきや、やっぱり彼も男だったらしい。だけど、それだからと言って私の気持ちを弄ぶことを許すわけにはいかない。
「……そんなにキスしたいなら、藤田さんと付き合えばいいじゃない。そしたら、もう、こんなの終わりにしてあげるから」
これ以上、あの掟で彼を縛っているためにこんな事が続くなら、私はもっと彼を好きになるだけだ。そんな、苦しいだけの恋なんて、できることならやめてしまいたい。
ひょっとしたら、今がそのチャンスなのかもしれない。なんて、そんなことを思っていると。
「待って。俺が、自分の性欲を満たす為だけに河合さんにキスしたんだと本気で思ってる?」
彼の問いに、黙って頷く。すると、彼は「河合さん、攻略難易度高いにも程があるだろ……」と呟いて髪をかき乱した。

