彼が見せてきたスマートフォンの画面には、昨日の通話履歴が映し出されていた。

 〝みぽりん〟と登録された名前と、昨日の通話時刻。それを見て私は、彼がまきろんであることを認めざるを得ない状況まで追い込まれてしまった。

「まさか、深川。あんたがまきろんだったとは……」

 信じられない。いや、信じたくはない現実を突きつけられ、私の足は今にも砕けてしまいそうだ。

「俺は何となく予測できたけどね。名前と、声と、会社の話とか聞いてたし」

「うっ……確かに」

 確かにそうだ。毎日声を聞いていて、私は何度かまきろんの声が聞き覚えのある声だと思ったことがある。

 だけど、まさかそれが深川だとは思いもしなかったのだ。だって、会社での彼は社内一モテるエリート社員なのに。廃人だなんて誰が思うのだろうか。

「あんた、会社でゲームの話なんてしてた? 電話越しでは〝彼女なんていらないし、興味を持てるほどの女がいない〟とか言ってたくせにいつも女の子に愛想振りまいてるじゃないの。大体、〝まきろん〟って、あんたの名前……」

「いや、同期の名前くらい覚えなよ。名前、深川真樹だから」

 深川……なんだっけ。なんて、下の名前を思い出せずにいると、彼の方から名乗ってきた。

 名乗られてもピンとこないということは、私は、恐らく元から彼の名前を覚えていなかったのだろう。