一歩、一歩、歩き進める。
まるで、真樹と藤田さんが仲良く話していることなんて全く気にしていないみたいに、堂々と。
すれ違い際、真樹がふとこっちを見たような気がしたけれど、私は敢えて真樹の方は見なかった。目が合えば、動揺を隠しきれなくなってしまいそうだったから。
「おい、河合」
後ろから清水が私を追ってくる。一度私のことを呼んだけれど、私はそのまま歩き続けた。
「───河合」
無視をして歩き続けた私のことをまた呼んだ清水。さすがに二度も無視するのは良くないか、と思った私がゆっくり振り返ると、彼は私の表情を心配そうに伺ってくる。
「なに?」
「いや、大丈夫かなーと思って」
「え? あ、ああ。全然大丈夫。別に二人で話してただけでしょ? あんなの、気にするわけないじゃん」
〝気にするわけない〟なんて言いながら、本当は気になって仕方がない。
だって、真樹と藤田さんは今日、二人きりで飲みに行くことになってる。それに加えてあんな風に会社でも話しているのを見かけたんだ。
きっと、もう、真樹は私なんていらなくなるに違いない。
「河合……」
「ごめん。清水、書類運ぶの手伝ってくれてありがとう」
あとは自分で持っていく、と告げて、清水の手から資料を横取りする。
彼はまだ何か言いたげに見えたけれど、背を向けた私は足早に事務所へ足を運んだ。