「事務所まで、だけど……」

ぼそっと私が呟くように返答をする。すると、彼は呆れたように大きく溜息を一つ。

「河合って、そういうところあるよな」

「え?」

「頑張り屋というか、我慢しすぎ」

もっと人に頼りなよ、と言った清水は私より先を歩き始める。


「……ありがとう」

清水の背中に届くようにそう言った私も、彼に続いて歩き始める。すると、歩き始めて間もなく、清水がピタリと足を止めた。


「わ、急に止まらないでよ」

清水の背中の目の前で立ち止まると、突然振り返ってきた彼が、何故か「やっぱりあっちから行く?」と来た道をまた少し戻る提案をしてきた。

「何で? 事務所まであと少しなのにわざわざもどる必要ないじゃない」

「いや、気分転換にちょっと遠回り?」

「営業回りで疲れてるんでしょ? 資料だってあるし、早く行こ……」

よく分からない提案をし始めた彼を不審に思いながら、私は突き当たり手前で立ち止まる清水を追い越した。

角を左に曲がる。すると、その先には受付の藤田さんと真樹が二人で仲よさそうに話をしている姿があった。


「あっ、」

私より先に、清水の方が声を漏らしてバツの悪そうな顔をした。


「なに? アレ見たからあっちから行こうなんて提案したの?」

あれくらい気にならないから大丈夫だよ、と、一見私より不安そうに見える清水に声をかけて歩き出す。

本当は誰よりも動揺していたけれど、それをここで出すわけにはいかなかった。