「……あ、河合さん」

真樹が、ふと何かを思い出したかのように私を呼んだ。

私は、返事をする代わりに彼の目を見る。すると、彼はいつもと何も変わらない表情で「今日藤田さんに〝二人で飲みに行きませんか?〟って誘われた」と言うだけ。


「……それで、何て言って答えたの」

彼は、しばらく何も言わなかった。だから、私が痺れを切らしてそう問いかけてしまった。

私がそう聞くまで返さないつもりだったのか、はたまた、その後の言葉を答える必要は無いと思っていたのか。それは分からない。


「河合さんが二人で飲んできて良いよって言ったんでしょ? だから、別に断る理由も無いし断らなかったけど。明日、二人で飲んでくるから」


何食わぬ顔で、平然とそう言った真樹。私は、彼の言葉を聞いた瞬間、ぎゅっと胸が苦しくなった。

自分でも分かるくらい、表情が歪む。きっと今、私の眉間にはシワが寄っているに違いない。


「なに? 何か言いたそうだけど」


何も言葉を返さずにいた私に、そう問いかける真樹。

確かに、言いたいことはある。だけど、二人で飲みに行っても良いと言ってしまったのは紛れもなくこの私だ。

それなのに、ちょっとでも行って欲しくないと思ってしまってるなんて、認めたくないし、言いたくなんかない。言えるわけがない。