「みぽりん」

 深川の横を通り過ぎた私の耳に入り込んできたのは、私の名を呼ぶ心地の良い声。

「え? 何で、」

 慌てて振り返る。そこには、不敵な笑みを浮かべた深川がいた。

 今、彼が呼んだ〝みぽりん〟というニックネームは、私がゲームの中だけで使用している名前。その名前を、会社の同期である彼が知るはずがない。だって、その名前知っていて、リアルで会うことができるのは……。

「嘘でしょ? まさか、あんた」

 同じ時間の同じ場所で待ち合わせていて、尚且つ、私がゲームの世界で使用している名前を知っている。

 やっと全てを理解した私は、疑惑を正確なものにする為に深川に問いかけた。すると、彼は笑って頷いた。

「本当に気づいてなかったんだ。河合さん」

「嘘でしょ……」

 私が苦手意識を持っている彼が、まさか、毎日通話をしながらゲームをしていた〝まきろん〟だったとは。

 全く予測できなかった展開に私の頭はひどく混乱した。

「え、何、あんたは気づいてたっていうのに言わなかったわけ? っていうか、本当にまきろん? 嘘でしょ?」

 誰か、嘘だと言ってくれ……!と、心の中で必死に叫んだ。しかし、その願いは虚しく、彼はポケットからスマートフォンを取り出すとその画面を私に見せた。