この複雑な胸の内。それは、きっと……いや、間違いなく真樹が原因だ。彼の顔を見た瞬間にまた荒れだした心に、私はそれだけは確信できた。だけど、ほんとうにそれだけ。
「何? じゃないでしょ。何、昨日のことまだ気にしてる?」
「別に、そんなんじゃ……」
「〝気にしてます〟って、顔に書いてるけど?」
つん、と額に人差し指を当てて笑う真樹には、やっぱり何でもお見通しだ。
何故か、こうして真樹にだけは本当の気持ちを分かってもらえる。それが、ほんの少しだけ嬉しいと思ってしまう。だけど、やっぱり悔しくて、私は真樹の指先を手で振り払った。
「気にしてないって。そんなことより、もうすぐ打ち合わせでしょ? 早く行った方がいいんじゃない?」
つい、また素っ気なく返してしまう。
せっかく彼の方は気にしないようにしてくれているのに。しかも、仲の良い恋人を演じなければいけない社内だというのに。私の方が規約違反だ。
「やっぱりまだ怒ってるじゃん」
「怒ってない」
「怒ってるでしょ? 昨日のことは、本当にごめん。俺の言葉足らずがいけなかったよね」
今度からはしっかり報告するから許して、と言って私の頭に手のひらを置いた真樹。
ごめんね、と優しくもう一度言った彼に、私はまたいつもと同じように自分の幼さを痛感した。

