仕事をしている間も、ついぼうっと真樹のことを考え込んでしまう時間があった。そのせいか、普段ならしないような小さなミスも多く、ついには部長に「体調でも悪いのか?」と言われてしまう始末で今日は散々だ。
「……はあ」
静かな廊下の隅で壁にもたれかかった私は、大きなため息を漏らした。
この後、17時開始の営業部の打ち合わせ。そこで使用する書類を抱えたまま、私はしばらく壁に上半身の体重を預ける。
ゆっくり瞼を下ろして、呼吸をした。こうして何度も自分を落ち着かせようと試みるけれど、何故か騒がしくて、胸の奥にずっとあるモヤモヤは晴れてはくれない。
こんな調子じゃあ、そのうちに大きなミスを出してしまうかもしれない。
何とかしないと、とひとまず自分の頬を人差し指と親指できつくつねる。すると。
「美帆」
「わ、真樹……」
背後からトントン、と私の左肩に誰かの指先がバウンドした。
驚いて振り返ると、そこには恐らく会議室に向かおうとしていたであろう真樹がいた。
「な、何?」
たぶん、今日初めて彼の顔をしっかり見たような気がする。
今朝も、私はわざと時間をずらして家を出たし、出社してからも私は彼を避けるようにして過ごしていた。
いつもと変わらない様子で私に接してくれる彼に安心すると同時に、また胸の奥がモヤモヤして、複雑になる。

