会社では無駄に人当たりが良いキャラを演じている彼は、どんなことがあってもこうして爽やかに笑ってみせる。

それに加えて、私の恋人役を演じ始めてからの彼は、このスイッチが入ると正直手に負えない。

何だか、王道少女漫画のヒーローでも見ているかのようで、少しむず痒い。


「酷いって……あのね。大体、昨日だって真樹があともう一回しよって何度も言うから寝られなかったんじゃない!私だけが悪い、みたいな言い方しないで……」

「深川。それから、河合さん。仲が良いのは良いけど、朝からそういう話は控えてもらえるかな」

目の前を歩く真樹に文句を並べながら歩き続ける。すると、私の背後から私でも真樹でもない声が聞こえてきた。

咳払いの後そう発された声の主は誰かと振り返ると、そこには営業部の部長が眉を顰めて立っていて、その横には何故か気まずそうにしている清水がいた。


「え、そ、そういう話……?」

「あまり大きな声で話すことではないからね。君も、女性なんだから少し気を遣った方がいい」

「えっ」

「深川も、寝不足にならない程度にな」


最後、真樹に意味深な言葉を残した部長と清水はすうっと私達の横を通り過ぎると何事もなかったかのように去って行った。